第陸話 【居候】
「――て、訳なんだ」
俺は何故追い出されたのかを吐き出すように全て話した
悔いはない、いや、少しはあるがこの二人…ミツキなら信じれると思った
何故だか分からなかったがそれだけは確信が持てた
「…それは本当なのか?モミジ…」
ミツキは訝しがる様な眼差しで俺を見た、俺は彼の視線を捕らえて確信こもった眼で見返した
「あぁ…全部本当なんだっ…あの時メノウ姉ちゃんと俺の喧嘩聞いてただろ?あれがこう言う事だっ…!」
「…信じられんな、普通そんな話をしても誰も信じぬであろうよ?」
彼は更にきつい口調で言った、だが俺は彼の眼を真っ直ぐに見、こう言った
「嘘じゃねぇっ!!信じてくれっ!!!」
俺の声、叫びが恐らく家中に響いただろう、俺の頭にも響き自分の声で頭痛がしそうになったくらいに
空きっ腹で怪我をした身体で叫んだものだから体中が痛い
「ミツキっ!!今の俺にはお前しかいないんだよっ…お願いっ…―」
「―…、確かに実際そんな大怪我でこの話を聞けば信じるしかないが」
「信じてっ!!」
「…〜ふぅ、当たり前だ儂と御主は友であろう?」
「ミツ…、Thanksっ!!」
俺は今にも泣きそうな顔で彼の手をガッシリと握り何度も何度もその言葉を繰り返した
「〜…嬉しいのは分かったから手を離してくれないか」彼は照れ臭そうにそう言った
けど俺はその手を離さなかった
ありがとう―
心の中でそっと彼にお礼を言った
+++
「……そのー青春しとるとこ悪いんじゃがの〜…モミジちゃんやっぱ言わんと…このままじゃ…」
じいちゃんが申し訳なさそうな顔をして俺とミツキの間に割って入ってきた
「…、分かってるよ…でも…、あっじゃ、じゃあちょっと様子見てきてくんないかな…?あ、御免なさい…」
俺は弱気ながら駄目元でじいちゃんに頼んでみた、多分駄目だろうけど…
「う〜む…ま、訳ありじゃし…ワシは女子の味方じゃからの♪」
以外にもあっさり俺の頼みを聞いてくれた、俺は世の中にはこんなにも良い人が居るんだなぁとしみじみ感じた
俺が知っている人達は殆ど俺の事を嫌っていたからなぁ
「今からちょっくら見てくるからの、晩飯作りかけじゃからミツキ後はヨロシクの〜」
そう言ってじいちゃんは軽快に出て行った
「…じいちゃんって良い人だな…俺こんな良い人達が世の中にいるなんて知んなかったよ、ありがとな本当に」
「?…うむ、しかし…御主、そんなにも苛められて何故明るく振舞える?普通は出来んぞ」
「〜…う〜ん多分母さんがいたからだと思う…つっても血繋がってないけど、後は俺緑川に来る前に世界を旅してたんだ、
英国とかイタリアとか諸国をさ!育ての親父とね」
俺は何処の国の人間か自分でも分からない、赤すぎる髪は多分ヨーロッパ辺りなのかと思ったら目は右が赤、左が黒の
オッドアイだからもしかすると色々な国の血が混ざっているのかもしれない、と言うか多分そうだと思うけど…
「世界を?それは凄いな〜」
彼は半分笑っていた、コイツ信じてないな
「嘘じゃねーよ!俺本当にいろんな国に行った事あるんだから!英語だって喋れるぞ?」
「ほ〜う?じゃ何か言ってみろ?」
俺はミツキのそんな態度にちょっと苛立った
「It has understood. Is it good in this?(OK〜コレで良いか?)」
そう言った瞬間ミツキの表情が固まった、どうやら全く信じていなかったらしい、俺は可笑しくてクスッと笑った
「…ぬ…出鱈目じゃないのか…?」
「感到吃驚?(驚いた?)」
俺は更に続けて言った、彼の口角が片方下がるのが分かった
「ぬ…」
「Could you believe?(信じてくれるよな?)」
「……」
ミツキははぁと大きく溜息を吐いた、その顔は「分かったからもういい」と言っていた
「…た、確かに…本当、らしいな…」
そう言ってミツキは俺の顔を見た、恐らく見た目だけ外人じゃないと確信したのだろう
「しかし…世界を旅していたとは一体?御主のその、育ての親は旅行好きだったのか?」
「いや、旅行の旅じゃなくて、う〜ん…冒険だなありゃ俺自身小さかったから何で旅してたか分かんなかったし…」
「?…益々分からんな」
「俺もさっぱり…でも、何時も誰かに追われてたような気がするんだ…それだけは確か…」
常に何時も、何者かが俺と親父の後ろを付けられていた気がする―
全く覚えていないんだけど…
「…?、さて飯を作らんとな、モミジは確か良く食べておったな?沢山作らんとな〜」
ミツキは笑顔で台所に行った
「…おめーも良く覚えてんな」
俺は半眼で彼の後姿を見送った
「―(母さん…俺このままでいいのかな?)」
+++
暫くしてじいちゃんが帰ってきた、彼曰くおじさん達は居なかったらしい
留守ではなく、家自体がもぬけの空だとか
家財道具もカーテンも全く無かったらしい、例の俺が下敷きになった箪笥も跡形も無く消えていたそうだ
ただ何かが激しく落ちたであろう跡はクッキリと残されていたと――
「モミジちゃん元気そうじゃがご飯は食べれるかい?何ならお粥作ってあげようか?」
じいちゃんが優しい声で俺に訊ねてきた
俺は朝も昼も、前の日の夜も食べていなかったので相当に腹が空いていた、勿論俺の事だから正直に食べれると言ったけどね
夕食は塩鮭に蓮根と牛蒡と人参などの野菜が入った煮物と豆腐の味噌汁だ、それと沢庵が並ぶ
俺の茶碗には飯が山に盛られていた、ミツキの好意(と言うより嫌がらせ?)だ
「…しかしの〜、この大晦日なのに何故にこんな子供を放ったらかして引っ越すのかの〜?」
「多分罪悪感からだと…違うか、あの人達の事だから宗家か分家に呼ばれたんかな…つーか俺大分甘く見られてんなぁー」
俺は食べながらもブツブツと愚痴った、自然と眉が逆八の字になる
「まるで夜逃げだな、だがこれで御主は助かったんじゃないのか?」
「…行き場もねぇのにか?…まっ無いなら無いで此処に住まわせて貰おっかな?なんてね」
「お♪ワシは構わんぞ寧ろ大歓迎じゃよ〜vじゃが…その量を毎食食われるとの〜…」
俺は既に4杯目の白飯を平らげていた、鍋の煮物も味噌汁ももうスッカラカンだった
「……あはは…、ゴメンなさいその昔の癖が未だに抜けなくて〜食えなかった事が多かったから、食う時は沢山食っちゃって」
じいちゃんは半笑いで苦笑した、こんなに沢山食べる客は普通いない、俺だってその位は分かる…分かっている、と思う…(汗)
「気にするな、明日は正月じゃしの〜」
「じいちゃん良い人だな〜☆…て、正月…?え…―」
俺ははっとして辺りを見回した、カレンダーを探していた
左側の壁にそれはあった
「…31日…、……マジすっか…?」
俺は額に冷や汗を掻いた、今日までの日にちを忘れていたのだ
嗚呼、こんな日に迷惑掛けて俺は何て馬鹿なんだろうと…反省しよう↓
「…その、色々ホントすいませんでした」
俺は一旦箸を止めて彼等に謝った、申し訳ない気持ちで一杯だ
本当に俺は運が無い
「謝らんでええわ、モミジちゃんはエエ子じゃし、暫く此処に住むと良い、な〜にこのミツキも似たようなもん
じゃしの〜」
俺はただ呆然とじいちゃんを見た、あまりの良い人振りに暫し口を開けていた
「ジイさんっそれは言うな!、今のは気にしなくていいぞモミジ」
「?…へぇ〜ミツが?コイツも居候なんだ?」
「そうなんじゃよ〜彼奴は此処に来てすぐくらいかの、境内でぶっ倒れておってなそれはもう飢えとってワシが助けて
やったんじゃ〜妖と言うから恐ろしいもんかと思ったらなに、只の生意気なガキでの〜」
「じゃぁじいちゃんコイツの命の恩人なんだ〜、俺と同じだな?」
「〜いやいやモミジちゃんを助けたのはミツキじゃよ〜彼奴はずっと「死ぬなー」って言っておっての〜それはそれは
物〜凄く心配しておったぞ?」
「…え、そなの…?ミツが?」
「っジイさんっ!!///、余計な事を言うなっ!」
ミツは微かに耳を赤くして怒鳴った、とりあえず俺は笑顔で彼にお礼を言った
「ありがとなミツ」
「〜…う、うむ…」
ミツは斜め下を向き頭をポリと掻いた、まだ耳が赤い、ミツは照れ屋なんだとその時初めて知った
「若いってええのぉ〜」
じいちゃんがそう言うとミツはまた怒鳴って怒った、が、全く迫力が無い
「あ、8時だ、あと5時間で来年が来るな〜今年もあっという間だったな〜」
俺はテレビの紅白歌合戦をを見ながらしみじみとそう言った
「じいちゃんじいちゃん、年越し蕎麦は大盛りね♪」
「ぬにぃ…やっぱ食うのかいモミジちゃん…」
「底なし胃袋女〜少しは遠慮せぬか!」
「…〜っ!良いじゃねーか、ね?じいちゃん良いよな?」
「う〜むモミジちゃんの願いとあらば、仕方ないのぉ〜」
「よっしゃ★サンクスじっちゃん♪」
大晦日の夜が更けてゆく
+++
『3、2、1…
「あっけましておめでと〜〜〜!!」
俺はテレビのカウントダウンと共に新年の挨拶をした、我ながらベタな事をやるな〜本当に(苦笑)
「ほっほぉ〜年が明けたな、しかしワシは今年は暇じゃしの〜」
「?何で?」
俺は不意に訊ねた
「言っとらんかったかの?ワシは神龍神社の神主なんじゃよ、まぁ今年はお休みでする事はないがな」
「…じっちゃん神主なんだ、じゃぁ何て名前?」
「愛染(アイゼン)、ええ名前じゃろう〜?」
「名前だけな、普段はただのエロ爺だし」
ミツが会話に入ってきた
「〜お前のぉ…ん、1時か…そろそろ寝るぞ、モミジちゃん具合はどうじゃ?」
「お陰様で☆もう傷もすっかり良くなったぜ☆」
俺はそう言って袖を捲くった、褐色の肌には今朝の傷はもう無かった
「…凄い、のぉ」
「んじゃっお休み♪」
俺は居間を出て布団のある部屋に向かった
+++
「―モミジ」
ミツが廊下で俺に声を掛けてきた、俺は振り向いた
「ミツ…?、あ、そだ―」
俺は彼に近付いて行った
「何だ…
―――
…っ?!」
「その…俺色々迷惑掛けちまってさ、これは…その、お礼♪」
俺は彼に近寄って彼の左頬にキスをした、勿論深い意味は無い
ただのクセだ
「………っ///、御主なぁ…」
「おやすみミツっ」
「あ、…」
彼は顔中が真っ赤になっていた、まるで林檎の様に
「(ちとやり過ぎたかな〜ま、いっか♪ミツ可愛かったし〜v)」
俺はミツの林檎顔を思い出してクスクスと笑った
俺は所謂オタクでもある(今は隠しとこ)
月明かりに白銀が照らされて綺麗な夜だった―