第参拾壱話【母】



本日、七月二十三日(月曜日)

今は夏休みの真っただ中である―

あの日から十一日が経過していた、その間十六日から十八日まで期末考査があった
成績の方は正直聞かないで欲しい…(泣)

「クラス二十一人十五位…まぁ俺的に頑張ったちゃ頑張ったわな、うん」
「な〜に独り言を言っておる?儂はクラス二十三人中二番だぞ♪大したことは無いが」

偉そうに〜、ミツは俺と違うクラスで三組だ、三組はミカとショウが居るクラスだ
俺は一人で一組だ、因みにアリサとハーちゃんと白河は二組だ

「話変わるけど今日から夏休みだね〜ww海行きたい☆」
「この間行ったであろう?」
「つぅぇっ!じゃぁ先ずは宿題しようぜぇい!そうだ!ミカ達呼んで宿題合宿しね〜?ほら一人でやるより皆でした方が早く終わるし♪」
「合宿って…なぁ〜」

「ショウはー…今日からお母さんと二泊三日の旅行とか言ってたっけ…行先は確か長崎県だっけな…良いなぁカステラ食べ放題かぁ」
「何で長崎と言ったらそうなるんだ?…〜仕方が無いのぉ儂と二人で宿題合宿でもしようぞ?」

「逃げらんない」とボソリと心の中で呟いた

確かにミツは頭が良いし、教え方も悪くない、ちゃんと噛砕いて説明までキチンとしてくれる、
がその反面少しでもサボろうものなら恐ろしい雷が落ちてくるのだ、とにかくコイツは飴と鞭の使い分けが上手いんだよな…嫌な方向でね

「じゃぁその前に百円ショップに行っていいかな?シャーペンの芯がストック無くなっちゃってさー」
「逃げるのか?」
「にっ逃げましぇん!!すぐ戻るから」

「一緒に行くか?儂も買う物があるし」ミツがニコリと微笑した、何だか怖い笑顔だな…

そうして俺とミツは百円ショップに行った



*+*

地元密着型百円ショップ「100マートCHIBA」この店は名前の通りここ千葉県にしかない、とってもローカルなチェーン型百円ショップだ
狭い店内所狭しとこれでもかという程に商品が並べられている、と言うか押し込まれている(ぎゅうぎゅうの押し入れの如き)

「あった!2Bこれじゃないと良い線が書けないんだよな♪」
「線?」
「ホラ俺絵描いてるじゃん?それに今年はわざわざ美術部の部長が直々に俺に頭を下げて「緑川さんコンクールの絵を描くのを一枚手伝ってくれない?」って
依頼してきたしさ〜♪]
「そうだったのか?御主絵が上手いからな、…しかし本当に頼まれたのか?」
「疑うなよ〜?テーマだって貰ったんだから、テーマは「青空」!キレイだろ〜」
「…似合わんなー」

「何ぃ〜!!俺にピッタリだって部長の山田先輩が 言ってたんだぞ?」
「しかし何故に御主に?」
「それがさーたまたま壁に貼ってあった風景画を見た山田先輩が「これは良いって!」称賛してくれたんだよ〜んで、頼まれたの♪」

モミジは嬉しそうに笑った、自分の事を批判ではなく評価してくれた事がよっぽど嬉しいのだろう

「さて…会計を済ませて帰るとするかモミジ」


+++

しかし、この時はまだ家にアレが来ていると言う事を儂は知らなかった…



「ただいまジイさーん!」バタバタと適当に靴を脱ぎ散らかしてミツがダッシュで居間に向かった
俺は溜息を吐きながら「ヤレヤレ」と彼のバラバラになった靴を綺麗に揃えた、ミツは真面目できっちりした性格だと学校で良く言われているが

実際は…家に帰り着くなり靴を脱ぎ散らかして揃えもせずに自室へと向かうという子供っぽい所がある、全くお前はカツオか?

「ぎゃーっ!!!!」俺が居間に向かおうとしていた時、突然ミツが大きな声で叫び声を上げた
俺は急いで彼の居る居間に走った

居間に入るとミツが仰向けになって倒れていた、と言うか倒されていたと言うか…「な、何があったんだよ?」


「へぇーアナタがモミジちゃんかしら?」


突然聞き覚えのない女性の声が聞こえた…俺はその声の主のが居る方にゆっくり頭を向けた

そこには長くて真っ黒なロングヘアーの長身でとても美人な女性が凛と佇んでいた
その女性はまるでパリコレモデルの様な顔立ちで日本人離れした感じがした…思わず見惚れてじっと見つめた

「わぁ…綺麗な人っ…てぇっ!どちら様ですか?」
「ふふふ…ゴメンなさいね、急にお邪魔して」
「い、いえ…」

俺はチラリと下に転がっているミツを見た
しかし、彼は目をギュッと瞑っていてガタガタと震えていた

「(ミツが怖がってる…ヤバい人なのかな)」
「怖がらなくても大丈夫よ?そうそうモミジちゃんにお土産があるのよ〜」
「はい?」

そう言ってモデルばりの女性が畳の上に置いてある真っ赤な紙袋を俺に渡してきた
しかし、素性も分からない人、しかもミツが怯える相手からのお土産なんて受け取れる訳もなかった

「け、結構です…」
「んもぉ〜子供が遠慮しないの!いつも魅月がお世話になってるそうじゃない?総司さんからちゃんと聞いてるわよ?」
「…(総司って誰だよ?この人何か勘違いしてる)あの、ミツの事良く知ってるみたいですけど?」

「あら?まだ気が付いてないの〜?アナタも魅月に似て鈍感さんなのねぇ〜」





「まぁ私たち親子はあまり似てないものね、私は
火群 桜(ホムラ サクラ)火群魅月のお母さんよ




衝撃だった

まさかの…ミツの母親、俺はマズイと思って頭を下げて慌てて謝った

「お、お母さまだったなんて知らなくて無礼を働いてすみませんでした!!」
「あら…あらあら、そんなに謝らないで私の方こそ突然押し掛けちゃってゴメンなさいね、ほんっと…」

「か、かーさん…何の用だよ?」先程までぶっ倒れていたミツが起き上がった
その鼻からは赤い筋が垂れていた、何で鼻血?

「用事なんて別にないわよ?強いて言えばアンタに会いに来たのよーホント随分と久しぶりね魅月…今までど〜して連絡を寄こさなかったのぉ〜か・し・ら〜?」
「っ!!ごっごっ…ごめんなさーい!!忘れてましたぁぁぁぁ!!」

ゴチィン!ミツの頭が上下に大きく揺れた
桜さんが彼の頭を拳で殴ったのだ、愛の鞭ってやつかな…

「んぎょーっ!!いきなり殴るな!」
「殴られる様な事をしたアンタが悪いんでしょーが?えぇ?!」

怖い、俺は実の母親がいないので母と言うものが正直良く分からない
きっと、俺に母親がいたらこんな感じなのだろうか…

「あ、あのーお母さま、はどちらからいらしたんですか?」
「え?…そりゃ人道門(ジンドウモン)を通ってよ、こっちの出口はここの敷地にある鳥居よ」
「??」

「…この世界にはいくつか妖界と人間界を繋ぐ道が存在しておる、その一つが儂の実家近くにある神社の鳥居だ、それが此処神龍神社の鳥居と繋がっておるのだ」

「因みに人間界からはその道の事を「妖門(アヤカシモン)」と呼んでいる、らしい」
「そうそう、そう言う事なのwそれにしても…」

「わーっ!!ホント御免なさぁい!!!」
「だぁいじゅぶ気になんてしてないわ〜それに魅月の顔見たら怒る気なくなっちゃったし♪」

「かーさん…今度からは手紙を書くよ、なるだけ毎月」
「分かったわ、絶対約束よ?」



そう言って桜お母さんは帰って行った
小一時間くらいだったがとても楽しかった


「…〜ふぅ、母親とは何と面倒な生き物なのだろうな」
「そうなの?俺は羨ましいけど?」




「モミジ、御主はあんな怒りっぽい母親になるでないぞ?とばっちりはゴメンだ」

ミツの台詞に思わず吹き出してしまった


「さぁ?どうかなー」







真夏の風がチリンと風鈴を鳴らした





まだまだ夏は始まったばかりだ





☆あとがき☆

魅月君のお母さん登場回です…。本当はこのタイミングで出すつもりは無かったんですが、後々のシナリオを考えて敢えてここで登場させてみました★
火群桜ママの性格は前々から考えていたんですが、ギリのギリまでこれで良いか迷ってました…。

最初から結婚もせずに破天荒にあっちこっちで男を作っては兄弟が増え、家庭が火の車なのは決めていたのでその原因の母親がこんなに明るくて良いのかしらと悩みました…。
でも、意外と実際にこんな母親が居たら多分こんな感じなのかもしれないと思いあえて普通の性格にしてみたのですが…

如何でしょうか?(個人的には桜ママンは好きなキャラですw)

あと、何時もは上から目線な魅月君を存在感だけで圧倒出来るのはこの人だけです♪
魅月君も母親には手が出せないのでやられっぱなしなのです。