廿漆話【一匹狼】


「暑い…わね」

窓を全開にして仰向けに寝そべっている一人の少女がいた
今日は六月十日、土曜日

場所は千葉県の某市某町の小さなボロアパートの二階、六号室

天気は晴れ、雲が分厚くあれは、積乱雲だ
その少女の名は「緑川瑪瑙(みどりかわめのう)」

江戸の時代まではその藩では誰もが知る有名な武家であったが
いつの頃からか「緑川」の名を口にする者は居なくなった…
彼女、瑪瑙はそんな緑川一族の末裔だ

「…女の子がそんなはしたない格好で大股広げてんじゃねーよ…パンツ見えるべ」

彼女の格好はキャミソールに太腿が大きく見える様な短パン姿だった
成長期の中学三年生の女子は発育が良い所為かキャミソールの大きく開いた胸元から美味しそうに熟れた白桃が顔を出していた
そんなまるで何処かのギャルゲーの様なシチュエーションがすぐ側にあるにもかかわらず全く手を出す素振りをしない若い男がいた(って俺の事だけど)

「あら…その角度じゃ見放題でしょう?ホ〜レ足舐めても良いのよ紫苑」
「誘うな馬鹿か…この暑さじゃヤる気にもならんわ」

そう言って彼、円谷紫苑(つぶらやしおん)は自身の両足で彼女の大きく開いた足をカパンとサンドするみたいに閉じた

「痛い…そんなだからいつまで経ってもドーテーなのよ」
「誰が童貞だ、ンなモンとっくの
昔に捨てたわい!」
「十九歳が何言ってんのよ?言っとくけど私に嘘は通じないわよ?」
「じゃぁ
らせろ」
「あらら完全に目がイッちゃってるわ…良いけど後でアイスね、安いのじゃ嫌よ」

「りょーかい♪」そう言って紫苑はダサい龍をあしらった和柄のアロハシャツをルパン三世の様に脱ぎ捨て、八双跳びで私に向かってやって来た
馬鹿なひと、そう思って私は小さく笑った


六月の青空に一羽の灰色の烏が飛び立った







ちなみに、円谷紫苑は緑川一族の墓守だ
その仲は緑川の歴史と並んでいる、だが紫苑は少々抜けているので誰も将来を期待している者はいなかった
そう、弟の紫苑には…


だが、今は瑪瑙も一族を裏切り緑川とは敵対しているが



+++

「し…死ぬ…暑い…さっきまで天国(桃源郷)にいた筈なのに……一歩外に出たら地獄って…」

本日の気温は今年一番の最高気温らしい、と今朝のニュースでお天気お姉さんが言っていた
ジリジリと降り注ぐ天空からの熱視線は今の俺にはちょっと眩しすぎる、少しの間いで良いからサングラスを掛けてくれないか、と言いたくなる

いや、寧ろそれを掛けたいのは俺自身だな…

「それにしても暑い…コンビニまでそんなに距離はない筈なのに…と、遠い気がするのは俺だけか…?」

ヤベェ…独り言を呟くのも限界が来ていた
出掛ける前にちゃんと水分補給をしておくべきだった、と今更反省していた

「おっコンビニちゃ〜んw…てアレ?」

自宅アパートから約五分の距離にある唯一のコンビニ、が

「本日休み…は?二四時間だろー?は?は…?はぁぁぁぁーーーっ!!!ざけんなよっ!ココまで汗垂らしてヒーヒー言いながら来てやったってのに休みだぁ??!
あんでだy…」

と、言い掛けて声が出なくなった
喉がカラカラで前と後ろの喉の皮膚がくっ付いたみたいになった

「(くっ…苦すぅーっ!!)…っガッ…はー……」死ぬかと思った瞬間だった(あえて過去形で)

コンビニの自動ドアに張られていた紙には「明日から改装の為一週間ほど休みます」と書かれていた、俺は腹が立ったので思い切りその自動ドアをグーで殴った

右手の拳が痛い…馬鹿はするものじゃない

「ちっくそーっ!」

仕方が無いのでそのまま手ぶらで帰宅した、きっと瑪瑙は凄く怒るんだろうな…それを想像すると体温が急に下がった気がした
とりあえず怒られる前に土下座しよう、と心の中で誓った



「たっ…ただいまーあのさー瑪瑙ゴメンなコンビ
「改装中だったでしょ?」

「へ?」
「昨日前を通りかかった時に張り紙がしてあったのよ」
「……な、なぁ知ってたら教えてくれねぇかな?瑪瑙ちゃーん…」
「知ってると思ってたわ、だからスーパーに行ったんじゃないかって…一応お疲れ様紫苑」
「…お、おーぅ(まぁ怒られないだけマシか…)」

俺はとりあえず喉が渇いたので、ワンルームにおまけの様に付いている小さな台所に向かい冷蔵庫の扉を開けた
小さな冷蔵庫の内ポケットには2リットルのペットボトルに今朝入れたばかりの麦茶がキンキンに冷えて二本並んであった
俺は冷蔵庫の横にある小さな食器棚から透明のガラスコップを一つ取り出して麦茶を注ぎ一気に飲み干した

「っ〜かぁ〜!夏はコレに限るなぁ〜生き返ったよ麦茶ちゃんw」火照った身体が一気に冷めた
それを横目で見ていた瑪瑙が、「私にはないの?」と訴えてきた

「…あ、わりーホイ!」自分が使い終わったガラスコップを彼女に渡した

「今注いでやっから…
「ばっちぃじゃん?(汚い)新しいの取ってよ紫苑」

瑪瑙は嫌そうな顔でグラスをシンクに置いた、そこまで嫌がらなくても良いんじゃねぇの?

「さっきまで俺の事スキスキ言ってた癖にさー」
「好きは言ってないわ!嫌いじゃないって言っただけよ?聞こえなかったのー?耳垢溜まってんじゃない?」
「そっ…そこまで言わんでも…て言うか
アソコまでしたんだし好きの一つくらい言ってくれても良いんじゃなーい?俺は言ってたんだしwお互いおたが…

バコッ、左手の甲で鼻っ柱を殴られた
その目は氷だ…俺は「スマン」と謝った

「それにしても…まさか貴方が私一人の為に千葉にまで越して来るなんてあの時は思いも寄らなかったわ」

「今更だな」俺は彼女の頭を撫でた、仄かに耳が赤くなったのが分かって嬉しい

「本来ならお前を連れ戻す為に派遣されたんだけどなー俺♪やっぱお前に会うとダメだなぁ〜気が抜けちゃうわ」
「人間は素直で良いんじゃない?私は素直な貴方が大好きよw」

「瑪瑙…俺もお前がだいす…
「何ドサクサ紛れに言おうとしてんのよバカ」

厳しい…だけどその気持ちに嘘はないよ


「心配すんな何があっても俺が護ってやっから!」

六月の空にそう堅く誓った





vvv

「〜しっかし何処まで歩くのだぁー?まだ着かないのか…?」暑さの所為でヨロヨロと歩く中学二年の男子と

「しっかりしろよ!あと五分だよ」と暑さなんて知るかって言う様な元気の良い同じく中学二年の女子は隣を歩く男子を励ます様に言った
本日は六月十日、まだ六月なのにも拘わらず気温は真夏の様に暑かった

少年の名は「火群魅月」、妖の烏天狗だ、そして少女の名は「緑川モミジ」、妖怪の鳳凰である(雌なので凰(オウ)だが)
まぁ普段は普通の…普通の中学生である、少々問題児であはあるが

「今何か悪口言われたような」
「気の…せーだろ…あっつーっい!まだか!まだか!紫苑さんの家はぁっ!!」
「もうすぐだよー!ホラあのアパート」

彼女の指差す方にグレーのシンプルな…ちょっとボロい如何にも昭和建築の風格が漂うアパートと言うか○○荘と言う方が似合いそうな建物があった

「メゾンド・クラッシュ…いや既に
自然崩壊しかけてますけど…もしかしてアレなのか?」

「そうだよ」とモミジが儂の腕を引張ってアパートに向かって走り出した



ピーンポーン、ちょっと抜けた音を出すインターホンを鳴らした
通路が小さなヒビだらけでいつ崩壊しても可笑しくなさそうな雰囲気を醸し出していた…
良く住んでいられるなぁ

「いらっしゃいな二人共、上がって」しかし、出迎えてくれたのは何故か瑪瑙だった
彼女は当たり前の様に振舞っていた

「…どう言う事だ?何で瑪瑙が紫苑さんの家に居るんだ?」
「居候してんだよ〜メノウ姉ちゃんwな?」
「そうよ、あんな事があった後だもの流石に実家には帰れないでしょ?まぁ暫くは友達の家に間借りしてたんだけどね」
「中学生が間借りって…両親は何も言わなかったのか?心配してんじゃ…」

「心配?そんなのする輩達じゃないわよ…殆どの緑川一族と円谷一族はね、性根から腐ってんの!」

「所で…何で二人が?」
「えっとなー…とりあえずミツの
コレ握れ!紫苑」
「いきなり下ネタかっ!」

「ちっ違います///コレです…」そう言ってミツはズボンのポケットから小さな木の箱を取り出した、妖力紙の入っている箱だ

「何だコレ?リトマス紙みたいだなー懐かしー」
「一枚とって下さい、えーと…来ていきなりすみません」

「んー…ん?んーっ!?」紫苑が妖力紙を一枚手に取るとみるみる色が青に変色していった
やはり、彼にも何かしらの能力がある様だ

「何だよコリャ?なぁ魅月くーん」
「率直に言います貴方は

「紫苑には不思議な力があるんだよ!…で良いよな?」
「御主ぃ〜!」

モミジに先に言われてしまった、仕方が無いので紫苑さんにザックリではあったが説明をした
彼は、最初は呆れた顔をしていたが儂等が能力(モミジの鳳凰姿バージョン)を見せると目を見開いて驚いていた
ついでに瑪瑙の風の纏いの能力も



+++

「良かったわね魅月くん、これで仲間は九人目ね♪残るは九一人ね!」
「は?オイオイまさか百人集めろとか言うんじゃないよな?」
「あら?そうじゃないのー?」

メノウはそう言ってクスリと小さく笑った
その時の彼女はどこか少し艶めいて見えた

「(……)」

「つーか…さぁー……コレってもしかしなくても奴さんが現れて「お前も一緒に戦うぞ」みたいな展開になったりして?だったら嫌だかんなー俺」
「それは無い!と言うか敵と戦いたくても敵が来ないのだ!!」
「つまりは宝の餅腐ってるってヤツね〜」
「宝の持ち腐れだモミジ」
「そうとも言うぞ〜、あーでもこうしてミツが出会う人達が皆力持ってるって事はいずれ敵が現れるっていうシグナルなのかもね」
「ちょっ今サラリと」

「…なぁ何かお前の話聞いてるとさーまるであの話みたいだよな…確か「南総里見八犬伝」っての」
「あら本当ね、確かあのお話って八つの玉を集めるのよね…まるでドラ
「それ以上言っちゃダメぇ!!!」
「…ボールだったかしら?私あまり漫画に詳しくないから」

メノウ姉ちゃんの発言で俺の体感温度がマイナス五度くらい下がった(著作権恐ろしい…)


「しっかし…ミツお前さー何か磁石みたいだよなぁ〜出会うヤツ皆何かしら力持ってるしー、惹かれるっつーかさー」
「そうねぇ、皆能力持ってるわね…惹かれはしないけど」

そう言うとメノウ姉ちゃんは何故か俺の顔を覗き込んできた
「なに?」と言うと彼女はクスリと笑った、本当何なのさ?

「そー言えばさぁ…何でメノウ姉ちゃんと紫苑の服装ちょっと乱れてんの?」俺は唐突に二人に問うた、実は気になっていた

「だって二人共さっきからベルトが長くダラリと服からはみ出てるんだもん、細かいコト気にしない紫苑は普通だけどさー」

と、俺が言うと何故か二人は顔を真っ赤にして固まった
俺は今更だったが不味かったかなぁと冷や汗を掻いた

「どうした御主等?…??トマトみたいだな」と、完全に空気を読んでない男がここに居た

「…あぁ”何でもねぇよ?な?」そう言いながら自身の前に立っているメノウ姉ちゃんに相槌を求めていた
しかし、空気は凍ったままだ(一人を除いて)

「え?えぇ何でも無いわよ…」


「…事後?」俺はとりあえずこの空気を壊すべく強行手段に出た

『///っ!!!???』二人の顔が更にトマトになって、しかも同じ表情で驚いていた

「な…何のことかしらモミジ?」
「そそそうだ、あんだよ…?」

「…うっわー超分かり易いwとりあえず
破瓜突破おめでとう(笑)」

と、俺がニヤニヤしながらそう言うとメノウ姉ちゃんは足元に転がっていた空のペットボトル(500ml)で俺の頭をバッコォーン!と、殴った

「…っってぇぇぇぇ!!!いきなり何だよぉ〜今一瞬星が見えたぞ」
「下品下劣下等生物!あと…は、破廉恥ぃ〜///」

メノウ姉ちゃんがキレた、いつも冷静な彼女が此処まで本気で怒るなんて

「そこまで怒るなよーゴメンってば!てか下等生物って俺より紫苑じゃん」

「あんだと(怒)」
「コレは珍獣よ!」
「ひでぇ!(涙)」

「良いじゃん?仲良しの証拠じゃん」
「それは…///でも勘違いしないで私は
「Love&peace=happy!」

「のぅ…何の話だ?」まだ状況を飲み込んでいない男が話に割って入って来た

「ミツー…ホントお前ニブチンだよな?この二人はデキてんの〜」
「あぁ…え?」

「昔っから紫苑メノウ姉ちゃんの事好きだったもんな〜良かったね♪リアルロリコン紫苑(19歳)」
「最後の何だよ!て言うか歳関係なくね?言っておくがこれはお前等の思っている関係では無いぞ?」
「…エンコー?」
「ちがう!これはなぁー」

「護れるヤツと護ってもらえるヤツが出来たんだイイ事だよ?二人が仲良いのは俺にとっても心強いしさー」
「モミジ…何だかゴメンなさいね、私達だけ…」

「何で謝んの?凄い事じゃん?愛って素晴らしいと思うよっ…て宗教臭いな今の台詞」
「あ〜…隠すのヤメたー、おぅ俺はさっきお前等が来る前に瑪瑙とセックスしたよ」

「ちょっ紫苑///」

「大好きなんだ瑪瑙が」
「…//////」

「…〜にひひ♪俺さずっと二人がそういう関係になんの待ってたんだ、だって俺二人が大好きだもん!だって二人、お父さんとお母さんみたいだもん」

「モ…モミジ///」

「……瑪瑙、こ…これからもよろしく、な」


青年の爽やかな笑顔が少女にはとても眩しく、とても暖かく幸せな気持ちになった

「今更だけど、私、やっと自分の居場所を見つけられたみたいね…ありがとう紫苑、私も貴方の事が好きよ」



六月の風が心地よい





+++

「のぅ…儂等何しに行ったんだっけ?」
「能力開発と愛の発掘……なーんてニャ☆」

「…儂も御主の事が好きだぞ」
「ミツ…俺も、大好きだよ…多分これからも、
ずっと―」

小さな少女は満面の笑みで儂を見た

恐らく空気なのだろう

手を繋いでいた儂等は自然の流れで互いの唇が触れ合っていた







「(彼女に出会えて本当に嬉しいよ)」







*あとがき*

という名の言い訳コーナーwww
瑪瑙はツンデレです!それも分かり易い方のw

性描写は書いてないので某法律には引っかからないと思いたい!しかし・・・何かだんだんキャラ崩壊してきてるなぁー。
最初瑪瑙はツンだけだったのに、気が付けばデレっぷりが暴走してるし。紫苑はもっとクールキャラだった筈なのにー。
最近じゃギャグ漫画書いてる気分だよー(言い訳)