第廿伍話【逆転】


六月五日の月曜日の放課後、四時過ぎ…
今日は最悪の雨模様だ、先週あんな事があった矢先にこの天気正直気分が上がらない
しかしあの日以来発情期は来ていない

これも一重にミツの
お陰である
俺は彼にとても感謝している、だけれど二週間後がちょっと不安である…ちゃんと予定通り来れば良いのだが

そんな事を考えながら一階の廊下を歩いていると前方が何やら騒いでいる事に気が付いた

痛いっいやっヤメテェーっ!!!」

悲痛に叫ぶ女生徒の声
俺は何事かと思い駆け足でその声の方へ向かった、するとそこには顔を真っ赤な
で染められぐったりとした女生徒が倒れていた
俺はすぐさまその生徒を助けに入った

「おいっオメェ等何してんだよっ?!大丈夫かおいっ…?」
「っ…ヤベー…コイツ緑川モミジだぜ?」
「お前等…」

俺は指をボキボキと鳴らし女生徒を虐めていた男子生徒二人を睨み飛ばした
すると男子生徒等はヒィ悲鳴を上げて駆け足で逃げて行った

「チッ…おっと今保健室に連れて行くからな?…あれ…おい?もしも〜し…?」しかしいくら呼んでも女生徒は返事をしなかった
俺はすぐに彼女を抱えて同じ階の西側にある保健室に向かった、この時間帯保健室には
先生がいる筈

俺は血塗れの彼女を気遣いながら必死に保健室に向かった、あともうすぐだ!


+++

「柊ィーーーーーー!!!!
急患だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」俺は保健室の引き戸を勢い良くバンと開けると養護教諭の名を大声で叫んだ

「…あんだよ?って…緑川2号か…ん?」
「2号ってっ…じゃなくてコイツボコられてんだよっ!!意識が
ぇかもしんねーんだ」

養護教諭の柊こと柊咲(ヒイラギサキ)は俺の背でぐったりとしている女生徒をすぐにベッドに寝かせた
彼は彼女をざっと見ると溜息を吐いて俺を睨んできた

「コイツはもう駄目だ…意識どころか息をしちゃいねぇ!…残念だが既に
死後硬直が始まってる……クソッ!」

柊はガクと肩を落としガンと何度もベッドを殴る
俺は何が起きたのか理解が出来ずにいた、ただその様子を脇でじっと見ていた

「どーしてくれんだよっ?!たくっ…ついに
しまで…おい緑川?」
「っ…違う俺じゃねーよ…言っただろ!そいつさっき虐められてたんだよっ!!男子生徒に…ヤメテって大声で叫んでたんだよ!」

俺は必死に自分の身の
潔白を証明しようとさっき見た状況を説明した
しかし柊は全く信じていない目で俺を殴ってきた、だけど俺は歯向いはせずにじっとただ殴られていた、もし俺が教師に手を上げれば絶対に訴えてくるだろうから

ドゴンっ

視界から柊が消えた
俺は何が起きたのか茫然としていた、頭の中が真っ白だ

「ってぇな…誰だ?」
だよ柊先生…それとモミジから離れろすぞ?!」

ミツだった
彼は物凄い目付きで先生を睨んだ、その顔はまるで
悪魔の様で俺まで鳥肌が立った

「…火群か……丁度良い、職員室に行って誰でも良い先生呼んで来い、緑川が人を殴って殺めちまった」
「モミジがっ?!馬鹿な…?」

ミツが俺を見る、俺は首をブンブンと横に振った

「俺は虐められてたのを助けたんだよっ!!
信じてよっ!!ミツっ!!!!!!」
「緑川…言い訳してんじゃねーよ…どー見たってお前以外居ねぇだろ?」

「待てよ柊先生、良く見てみろ!モミジの手には血は付いちゃいねぇ…もし殴ったなら付いている筈だよ?」

彼は一人冷静に状況を見た
確かに俺の手には血は付いていない、ただ彼女を背負って運んだ所為で背中に少量だが血が付着していた、ただそれだけだ

「チッ…じゃぁ一体誰が?!」
「その前に早く職員室に!」

ミツが柊に命令した
落ち着きを取り戻したのか柊は俺達に此処から出るなよと言い残して保健室から出て行った
俺はヤツが出て行った途端に身体中の力が抜けてその場でくず折れた

「…つーかこの人本当に死んでんのかな?動かないけど…」俺はすぐ後ろで寝ている(倒れている)女生徒に声を掛けてたり軽く揺さぶってみた
しかし全くピクリとも動かない、腹部が上下運動をしていないのだから本当に死亡しているのだろう
だけど俺はあまり怖くなかった、と言うよりまだイマイチこの状況を理解できていなかった

「……廊下を歩いてたら女生徒の叫ぶような「助けて」って声が聞こえて急いで駆け付けたら顔が真っ赤になったこの人がぐったりしてて男子生徒が二人いて
ボコってたんだ…その男子生徒は俺の顔を見るなり逃げて行ったよ」
「そうか…それでその男子生徒は何年だ?」
「…一瞬の出来事だったから分からないや……でも多分体格良かったから三年かな、顔は二人共目が細くて一人は確か…坊主だったような…」

ガラリ…、引き戸が開いて柊と数人の教師が保健室に入って来た

「あぁ…美作さんじゃないか…!?何てこったっ!!」

一番手前にいた長身の男性教諭、山野内先生が彼女、美作さんの横たわっているベッドに向かって掛けた
彼は数学の教師で三年生の担任である、恐らくこの女生徒の担任だろう

「緑川…今警察を呼んだ…ちゃんと償えよ」柊が冷たい視線で俺を睨む
だから俺は「それでも俺はやっていない!」と反論した、他の教師も柊同様教師とは思えない程の冷たい眼差しで俺を睨みつけてきた

「もし俺がこの人を殴ったなら保健室になんか連れてきやしないよ…だってここに来たって誰も俺の味方をしてくれる奴なんて居ないからな」

最もらしい台詞だな、ともう一人の教師、金井先生が更に冷たい、と言うより氷山の様な目で睨む
四面楚歌、正にその言葉がピッタリと言った状況だった

「柊先生…救急車はまだですかね?」山野内先生が震えた声でそう言った

「あと三分程で到着しますよ…なぁ緑川、お前じゃないとしたら一体誰が犯人なんだよ?」
「っ…だからさっきも言っただろーがっ!!!助けてって声が聞こえたから行ってみたらコイツが倒れてたんだよっ…でもその時居た奴等には逃げられちまった
けどな…嘘じゃねーよ!!」

「良い訳は見苦しいぞ?緑川二年」

金井先生が俺の肩を掴んでバンッと後ろのベッドに押し付けた
「痛ぇっ!!」手摺が背骨に当たった

「良い訳なんてしてねえ…どーして誰も信じてくんねーんだよっ!!!!!!!!!!!!!」
「儂は…俺は信じてるぞっ!!!!」





バンッ!今度は勢い良く扉が開く
皆がその方を見やる

ゴトン、何か大きな
モノが教室に放り込まれた
生徒だ、二人の男子生徒だった
皆呆気に取られる

「彼女の言う通り…
犯人はコイツ等だっ!!

小さな影が風に揺られている、逆光で良く見えなかった
しかし目が慣れてくると…何とも可愛らしい少女が立っているではないか

俺より
小柄で大きな瞳、真っ黒いボブヘアーの…仁王立ちをした少女だった

「視聴覚ルーム前の手洗い場で手に付いた血を洗い流してたらか怪しいと思ってかーるくボコったらすぐに白状してくれたよ「
俺達が美作を殴った」ってね」

その少女はそう言いながら保健室に入って来た
シーンと静まり返った室内には彼女の足音だけが静かに響いたコツーンコツーン…と

彼女は俺の所までやって来ると歩を止めた
俺は唖然としながら彼女を見た、小柄な彼女はその場に片膝を付き俺の頭を軽く撫でた
彼女は耳元で「もう大丈夫だよ」と優しい声で囁いた、俺はその言葉を聞き安心し身体中の力が抜けてゆく…そこから先は何も覚えていない




「さぁ先生方…コイツ等を起こして事情を聞きましょう?」

少女は儂等の方を向くとニコリと笑い立ち上がった
そして先程自分がブン投げた男子生徒の元へ向かった、彼女は彼等を蹴った、一人の生徒が目を覚ます
彼は一体何事かと言う顔をして辺りを見回していた

「此処は保健室だよ…ほぅら先輩方がタコ殴りにした美作先輩だよ」脅しの様な彼女の台詞が冷たく響く
その目は…

「遅くなってすいませーんっ!!!患者は何処ですかっ?」

見慣れない白い服を着た男達、救急隊員だ
彼等はすぐさまベッドに横たわる美作先輩を担架に乗せて保健室を後にした、小柄な少女はチッと小さく舌打ちをした

「森元センパーイ今のが血塗れの…いや
死亡した美作先輩だよ〜?ねぇどーすんの〜?」
「は…?死亡?意味分かんねーし、あっ山野内先生なぁ俺このチビに殴られたんだけどコイツ辞めさせてよ!」

男子生徒は大きな声でベッド脇に佇んでいる山野内先生に訴えた
しかし当の先生は口をポカンと開けて放心した状態でピクリとも動かなかった、ショックで今にも気を失いそうな状態だった

「ねぇ何とか言ってよ!金井先生!柊ちゃんも!…ァレ?なぁ…何だよ??ねぇってばっ!!」
「バカでぇー空気ヨメ男ォ〜」
「は?」

「テメェが犯人かっっっ!!!!!!!」開口一番出た言葉は怒りの一斉だった
儂はその男子生徒に向かって走った、しかしすぐさま少女に阻まれた




「っえっえっえっ???ココドコー?あっ柊センセー金井センセー?…あれ保健室??…森元どーしたんだよ…あれ?…あれ?」

遅れてもう一人の男子生徒も目を覚ました
彼は何が起きたのか全く理解出来ていない様子で阿呆みたいな顔をしていた、よくこの騒ぎの中で目を覚まさなかったのか不思議だ
しかしそんな事よりも…

「ねぇ金井先生?」
「おい緑川2号…二人の男子生徒が美作イジメてたって言ってたよな?で…確か叫び声聞いて駆け付けたって言ったよな?…おい緑川?」
「柊先生、モミジは気絶して…」

「ねぇ柊先生、緑川さんとこの生徒どっちを信じますか?…そりゃー緑川さんって嫌われ者だし性格最悪だって噂ですけどーまぁ最近は優等生等と仲良し
みたいだしそれに…それなりに和解してるようですしー?…それに比べて森元先輩と阿藤先輩は家はお金持ちで表向きには良い子チャンしてますけどー
実際は超性格最悪で、笑いながら自分の気に入らない生徒をボコボコにしちゃうって噂ですよねーしかもターゲットは全員女生徒ばかり…さぁ

二人共彼女と彼…どちらを信用しますか?」

少女は満面の笑みで両先生を見つめる
金井先生は苦い顔で「犯人は緑川に決まりだろう!」と気を失ったモミジを指差した、しかしその隣の柊先生は

「証拠が揃っちまったら後は証言だけだな…おい森元、阿藤お前ら自首しろ!」
「っちょっ柊先生っ!何言ってんですかっ?!犯人は緑川でしょう?彼等はこの生徒に無理矢理殴られて此処に連れて来られただけ、よく見てくださいよ!
森元も阿藤も真面目で優しい良い生徒ですよ?…それに比べて緑川は不真面目だし成績は悪いしおまけに家柄は最悪だって話ですよ!」

「…はぁ〜金井先生?アンタドコ見てんすか?…森元と阿藤の手見て下さいよ?キレイに洗ってる様に見えるけど、爪に黒ずんだ塊が見えるでしょ?
あれ、血液ですよ?自分養護教諭だから血は見慣れてますからね〜それに二人共あんなに爪が長いじゃないですか?金井先生は見て無いんですか?
彼女の顔の傷の中に…無数の爪痕があった事…恐らく彼等の手にルミノール液を吹き付ければすぐ分かりますよ?」

意外な事に柊先生はモミジの
弁護をしてくれた
さっきまでモミジの事を犯人扱いしてた癖に
一体如何言う風の吹き回しだ?
儂は意味が分からなくなった

「ちょっ…ちょっと待って下さいよ!アナタは我が校の生徒を犯人にするつもりですか?ふざけないで下さいよっ!」対抗するかの如く金井先生が吠える

「緑川だってウチの
霞ヶ浦中学校の生徒ですよ?ふざけないで下さい」
「なっ!!!!!!!!貴様ぁーっ!!!一体どっちの味方だ?!」

金井先生が更に吠える、額に青筋が見えていた

「んー…なモン決まってんデショ?オレは
女の子の味方だよ」

爽やかに柊が返す、金井先生は呆れた顔で大きく溜息を吐いた

「…っ!!!柊先生…」
「家柄や優しさで罪を免れられるならどんな凶悪犯だって捕まりやしませんよ?」
「…〜〜〜〜!!!」

「あっ…あのー…俺等美作さんなんて殺してませんよ?」男子生徒の一人阿藤先輩が空気を破るかの様に話に割ってきた
その言葉に金井先生は「そうですよね〜」と優しく彼に言った
しかし

「おーい阿藤…今何つった?」柊が阿藤先輩に向かって歩く
先輩は「え?」と言う顔をして目を丸くしている

「オマエ今…「美作」を殺してないって言ったよな?」
「あ」

瞬時、阿藤先輩がバツの悪そうな顔をした
そう、彼は自ら墓穴を掘ってしまったのだ、阿藤先輩は救急隊員にに運ばれて行く美作先輩を見ていない、此処にいる全員が二人を見る
両先輩は気不味そうな顔をしてすぐ後ろの出入り口からダッシュで逃げて行った

「っアイツ等ぁーっ!!!」柊先生がすぐさま奴等を追い掛ける
その後ろを少し遅れて儂と少女が追った

「…へ?って私を置いて行かないで下さいよっ!」私も彼等の後を追おうと廊下に出た、が
若い所為か保健室を飛び出した時にはもう三人の姿は無かった、私は如何すれば良いのか分からなくなった

「金井先生?あれ…柊は?皆は?てか警察は?」

俺は少し前に目を覚ました
気が付けばベッドの脇で放心状態になっている山野内先生がいて出入り口前には呆然と立ち尽くしている金井先生の姿があっただけだった

「緑川…疑って悪かったな…しかし私は…霞ヶ浦中学校はこれから如何すれば良いんだ?…誰か教えてくれよ……」

金井先生がゆっくり振り向きながら訴える様に言った
その様子から何となく状況を察知した、恐らく思わず白状した先輩達がマズイと思って逃げ出したのを柊達が追い掛けたんだと

「ゴメン先生、俺アイツ等を追うよ!」そう言って俺は保健室を後にした


+++

正門前、森元と阿藤が突然歩を止めた

門の前には二台のパトカーが止まっていたのだ、二人は狼狽えて門から出るのを躊躇していた

「やっと…止まったか…はぁ…はぁ……」柊が息を切らして二人に追いついた

「…オイどーすんだよ?阿藤お前の所為だぞ!」
「んな事言ったって…」

「袋の鼠ですね?…観念して下さい先輩達、もう二人逃げる道なんて有りませんよ?」
「そーだ!…つーかオマエ等何で美作殺したんだよ?アイツは莉紗子チャンは誰にでも優しくて…そりゃ顔はちょっとブスだったかも知んねーけど…
莉紗子チャンち母親居なくて兄弟の世話とかスッゲー一生懸命に頑張る良い娘なんだよ……それなのに…それなのにオマエ等ぁぁぁーーっ!」

柊先生が先輩達に向かって走った、その頬には一筋の涙が伝っている

「どんな理由があっても他人の命は…奪っちゃいけねぇんだよっ!!!!!…返せよ…莉紗子チャン返せよぉぉっ!命返せよぉ!!!!」

二人の胸倉をガッと掴んで怒号の叫びを上げる
しかし当の二人は依然としていた

「…ねぇ先生、その手離してよ…俺等別に
何も悪い事なんてしてないよ〜?ねぇ人殺しちゃいけないの?」阿藤がとんでもない事を言った
その言葉に先生は更に怒りをあらわにして二人を同時に離すと阿藤先輩を蹴り飛ばした、阿藤先輩は宙に弧を描く様にすっ跳んだ

いけねぇに決まってんだろぉーーーっ!!!!」そう言って森元先輩も蹴り飛ばした
今度はさっきの様には跳ばなかった

「…っはぁ…ふざけんなよ…テメェ等の所為で二人も生徒に手ェ出しちまったじゃねぇか…っクビだよオレぁ」

「っ痛いですよー…
意味分かんない

森元先輩が無表情に近い顔で柊を見る
正直その顔は怖いと言うより気味が悪い、この二人には罪悪感と言うものが無いのか?と言うくらい潔いまでのバカっぷりだった
柊の少し後ろでその様子を見ていた儂はこの二人がとても可哀相に思えた、いや不憫と言うのかこれは

「オマエ等ぁぁぁぁ!!」柊先生が森元先輩を股蹴ろうとしていた
その時…

「此処はボクに任せてよ!…ハナちゃん頼んだよっ」儂の隣の少女が元気良く右腕を突き出した
儂は何事かと思い横を見た、儂は目を疑った

何と彼女の腕には

「威嚇だけで良いよ」

にゅる…茶色の長い胴体に黄色の横線、そうそれは…

「マ…マムシ!?」
「そうだよ、この子はマムシのハナちゃんだよ?ボクの友達だよ…さぁ覚悟しな二人共っ!!!」

マムシが倒れている森元先輩の足元向かって一直線に蛇行した
この蛇、彼奴の言う事を聞くのか…儂は鳥肌が立った

蛇が先輩の足に巻き付く、彼は「うわぁぁぁぁぁぁぁ」と醜い悲鳴を上げてジタバタする
蛇は太腿まで辿り着くとチョロチョロと赤い舌を出してからかう様に睨む

「…おい早瀬やり過ぎだ…ま、噛まねぇけどさ」
「噛む訳ないじゃん?ハハーだってハナちゃんはボクのトモダチだよ☆」
「…つーか気絶したぞ?」

「あのー…そろそろ良いですか?」痺れを切らした警察だ

「あー…なぁ兄ちゃんコイツ等蹴ったの見逃してくんね?オレ今月コレヤベェんだわ」そう言いながら柊先生は右手でお金(?)のポーズを作ってウィンクする
警察は苦笑いで「あのねぇ」と溜息を吐いた

「で?彼等が言っていた女生徒を殺したって言う生徒さん達ですか?病院から連絡が来ましたけど…」
「おぅコイツ等が莉紗子チャン
殺した犯人ねー後は頼むね兄ちゃん!」

そう言って彼は踵を返し校舎の方に戻って行った
その姿は何だか寂しげだった、ひらりと吹いた風に白衣が靡く

「あっえっと…警察?」
「そうですよ、この子達ですよね?…今の人は通報をしてくれた先生ですよね?」
「…えっと…多分…先輩達どうなるんですか?」
「とりあえず事情聴取ですね、どうなるかはその後ですよ?」
「そう…ですか」



+++

「一件落着♪だね火群魅月く〜ん?だったよね?いや烏天狗の君の方が良いかな〜♪」



「ミツゥーーーっ!!!」

俺は漸く追い着いた、しかし完全に出遅れた様で既に先輩達の姿は其処には無かった
ポリリと頭を掻いた

「あらーもう終わり?そう言や柊は?」
「全て終わったよ…緑川モミジちゃん…いや鳳凰ちゃん」
「へ?」

「御主っ如何してそれを?!」ミツが叫ぶ、何だか意味が分からなかった

「御主も妖なのか?」
「まっさかぁ〜♪ボクは生粋のニンゲンだよ?どーしたのさ
人間がキミ等の正体知ってちゃ駄目なの〜?

小柄の少女がニヤリと嗤った、儂は鳥肌が立った
彼女はゆっくりとこっちに向かって歩いて来た、放課後の所為か辺りには誰も居なかった、空はすっかり夕闇の暗幕包まれていた
今日の天気は朝方が雨天だったので余計に暗くなるのが早かった

「何で知ってるか教えてあげよっか?」彼女が挑発する様な顔で儂を見た
儂は近づいて来た彼女の両肩を掴んで「他言したか?」と睨みながら尋ねた、しかし少女は

「してないよーするわきゃないっしょ〜??」
「じゃぁ如何してだ?答えろ!」
「イイけどーその手離せよ…三男クン(笑)」
「…御主何処まで知っておる?」

「〜…A・Kに聞いたんダ♪ヨ♪」
「A・K…っってふざけるなぁっ!!!」

少女は意味不明なアルファベッドを言った、儂は怒り心頭で彼女の頭を殴った

「ってーヨ」

「亞璃沙 熊田…A・Kだよな?」

「せいっかいっ♪そーだよアリーに聞いたんだよ〜★」
「なっ…熊田ぁぁぁぁーーーっ!!!??…マジかよ…って御主熊田の友達だったのか?」
「アリーはボクの良きリカイシャだよ♪だってアリーが初めて人間界に来て話した人間がボクだもん☆えっと〜…確かーあれはアリーが小五の時だから…
三年前だね」

「でも良く分かったネ〜??」
「雰囲気」

「アリャ☆」
「てか喋り方クリソツ」

「僕が本家ヨ★アリーが真似してんの〜」
「道化師な所とか良く似てるよーでもまっ」
「?」

「助けてくれてアリガトな!…そーいやお前名前は?」
「ん?早瀬凪(はやせなぎ)ダヨ♪好きなヨーニ呼んでチョと言う訳でヨロシクねミジー☆ツッキー♪」

「早瀬、凪…か、じゃぁ俺はハーちゃんって呼ぶよ」
「儂は早瀬と呼ぼう、ってツッキーって何だよ?はは…まっ良いけどな」

儂はフゥと小さく溜息を吐いた、それと同時に思わず笑いが零れた
先程までの雰囲気と今の雰囲気があまりにも違い過ぎて可笑しくなった

「オットット!ボク今から買い物行かニャキャ★と、言う訳でホンナラばーい!」

早瀬が走って正門から出て言った
て言うかホンナラばーいって何だよ?、彼女の台詞はイマイチ良く分からない

「ツッキー俺達も帰ろうぜーミッチー」
「ツッキー言うなってミッチーは止めろ」



今宵は曇天、月は見えない
しかし儂の隣にはキラキラ輝く星がいる

初夏だがこういう天気の夜はまだ寒い
今ふぅと風が吹いて頬に触れた、モミジが寒いと言っている

早く帰ろう

「(そう言えば柊先生…最初モミジ対してあんな事言ってたのに如何してだ?…まるで
最初から味方になってくれるみたいな…)」