第廿弐話【裏切】
先週、ミカは白河、サトシから話を聞いたそうだ
彼女はワクワクしたと目を輝かせていた
今日は五月九日の月曜日、今日はまだ朝からミカに会っていない
もう昼休みなのだが…
学校には来ていたが授業が終わるとある人物…特定の男子の席に行っている
その男子とは俺も良く知るあの彼だった
「ねぇ〜ショウww今日は二人でランチにしない?」
「良いよ♪今日はミツキ達と一緒じゃないからね」
木村彰、三組の優等生だ
で、
現在ミカこと叶実果子の彼氏である
毎日毎日ベッタベタだ、正直
「ウッゼーYO」
「何故ラッパー?」
「だってYO〜」
「落ち込んでるんでしょう?モミジさん」
「ズバシッ(ズバリ)Do〜して分かったサトっちYOー」
如何してって?、いつも違う態度だし、さっきから目が泳ぎまくってるんですけど…って言えやしないけど
と、私は心の中でツッコんだ
九州に居た頃からモミジさんと叶さんが仲が良い事は知っていますからね、なんてたって二人は親友ですから
「人は誰しも恋をするものだ、諦めろ、女の友情とはそう言うものだ」
「知った様なコト言うな!…そらー俺だって二人とは仲良いし応援くらいは…応援くらいはしてやるけどさー一回くらい俺にも声掛けろっつーの!!バァーカー!!」
モミジさんは半泣きと言った表情で虚空に叫んだ
私はとりあえず苦笑いで彼女を慰めた
「しっかし…薄情な女だな叶も」
「ですね〜。あれでは友達を失いかねませんよね」
「二度目!小学の時も好きな子が出来たって言って俺を一週間無視した」
「でもその好きな子に好きな子がいるって分かって結局は俺に泣きついてきてお終い」
「自分勝手だなぁ〜」
「ですね」
「フラれろそして泣き叫べ!俺は助けんぞっ!!」
モミジはフンと鼻息荒く腕組みをしてドヤ顔をした
いつもと変わらないのだがその矛先が自身の親友とは、女とは時に恐ろしい生き物である
「そんなに悔しいのならモミジさんも彼氏を作ったら良いんじゃないですか?」
白河がサラリと言う、まぁ確かにと儂も頷いた
しかし、このモミジが恋をするとは、恋が出来るとは考えにくい…
「そうすれば彼女も貴女と同じ気持ちになると、思いますが…」
「何だよ〜その旦那が浮気したから自分も浮気して仕返ししようみたいなの、言っておくけど俺はそんな仕返しは絶対しないからな!第一卑怯だし…」
正統な答え、精神不安なのかと思っていたら意外と落ち着いていた様で自分の意見ははっきりと言ったようだ
「そうではなくて恋をすれば貴女も叶さんの気持ちが分かるんじゃ…ないかと」
「そうやって再度自分に振り返って欲しいみたいな…卑怯だなサトシは」
モミジは真面目だ、と言うより今の彼女には慰めは必要ない様だ
なので儂は慰めなかった
「…〜火群君っ何とか言って下さいよっ!」
「モミジっ!!いい加減にせぬか!白河は御主を慰めようとしているんだぞ?」
「………ゴメン……」
また泣きそうな顔、しかし今度は本気で悲しそうな顔をしていた
ちょっと言い過ぎたかと気まずい気分になった
「分かってるよ…でもー何か悔しいって言うか…また遠くに行っちゃったみたいでさー…ミカが幸せなのは嬉しいよ、でもさー…やっぱムカつく」
モミジは嬉しい様な悲しい様な何とも言えない複雑な表情を浮かべていた
儂もその気持ちは分かる、儂も親友(?)のショウがここ最近冷たいので正直嫌な気分だったし
しかし、冷静に考えれば何の事はない、恋人が出来れば誰だってそうなる、友達なんて構ってる余裕は無い
「それが自然だ、しかし此処は親の気持ちで温かく二人を見守ろう」
「じゃぁ俺は父親の気持ちでショウを追い出すよ」
次から次へと…良くもまぁそんな台詞が出てくるもんだ
「…じゃぁ聞くが、御主は叶に何かをされて嫌な気分になったのか?何かをされて」
「昨日中休み次の時間の授業で使うコンパスを忘れたから三組の藤沢さんに借りに行ったんだ、そしたらミカが丁度その藤沢さんの席の前に居てさー
俺、最近あんまりミカと話してなかったからとりあえず挨拶くらいしようと思って「よぉ」って声掛けたんだ、そしたらミカはつっめたい視線で
「煩い」って…まぁその時ミカはショウと話してたから邪魔だったのかなって思ったけど…煩いはないよな煩いは……」
「…それは酷いですね。人として最悪ですね」
「だな…しかし叶も叶だ、シカトならまだしもそんな事をモミジに言うとはの〜」
「俺さーその時…ちょっと死にたくなっちゃよ、いやマジ」
モミジの顔が薄っすら白んだ、石化手前だ
儂はヨシヨシと彼女の頭を撫でた
「心配せぬとも御主には儂等が付いておる、な白河?」
「えぇ。貴女の側には私達がいます!」
儂と白河は笑顔でモミジに微笑んだ
モミジは何だか放っておけない、だって儂は……
「楽しそうねモミジ」
突然突風が吹いたように凛とした声が背後から聞こえた
随分と久し振りの登場の瑪瑙こと緑川瑪瑙だ
彼女はニコリと笑って儂の隣に座った、今日の彼女は長い髪を頭のサイドで二つ結びにしていてちょっと女の子らしい
「来た噴水あたま」
「あら毬栗子猿ちゃん、今日はあの子達とは一緒じゃないのね?喧嘩でもしたの?」
モミジは中立ちで瑪瑙の背後に回った
そして「言うなよ〜」と蛸の口で瑪瑙の髪を引っ張った、瑪瑙の首がカクっと後ろに反りかえる
儂は思わず可笑しくてプッと笑ってしまった、瑪瑙が睨む、視線が怖い…
「ミカはショウとランデブーだよ、で俺はコイツ等と文句ブー」
「じゃぁ私はオナラブー」
「瑪瑙が冗談をっ…!?」
「あら本当よ(笑)」
「くっさぁーっ!!何だよこのピータン腐らせたみたいな匂いは」
「昨日賞味期限の切れた納豆食べちゃってね、それからお腹の調子が悪いのよ」
「瑪瑙…御主便所行け」
「あら?そこに居たの?ふふふ」
「メノウ姉ちゃん…って何しに来たの?」
俺はあんまりにもメノウ姉ちゃんが自然といるものだからすっかり忘れていた
「…何かないと来ちゃ駄目?」
「それは無いけど〜…そう言えばあれから紫苑とは連絡は?」
「えぇメアドは交換してあるから今の所二日置きにメールしてるわ」
「何て?」
「久しぶりにゆっくり話したいから今度二人で食事でもしないかって、アラビアンって言うホテルのレストランでね…場所は知らないけれど」
「…それって井澤駅の近くじゃない?」
「えぇそうよ、知ってるの?」
「逃げてー」
俺は気まずい顔でメノウ姉ちゃんに耳打ちした
メノウ姉ちゃんは一瞬目を見開いて眉間に皺を寄せた、因みにそのアラビアンと言うホテルはよくこの辺りの人がラブホテル代わりに使うビジネスホテル
である、そのホテルのロビー横には小さなイタリアンレストランがある、らしい
「…安心して、もしナニかあったら軽く殺すからフフフ」
「それなら良いけど」
俺はグッドラックと言って親指を立てた、メノウ姉ちゃんはニコリとした顔で屋上を後にした
って去り際に一発していくなーっ!!
「何だったんだ…?」
「彼女って緑川瑪瑙先輩ですよね…?お知合いなんですか?」
先程の会話に微塵も加わっていない白河が丸い目をして訊ねてきた
儂はあぁと答えると白河は「それならそうと言って下さいよ」と叫んだ
「何だ白河、瑪瑙が気になるのか?しかし彼奴は高嶺の花だぞ?」
「ちっ違いますよっ!!そりゃ確かに瑪瑙先輩は才色兼備で手の届かない人ですけど…あんな学校の有名人と知り合いだなんて…お二人共何者なんですか?」
「俺のはとこだよ〜血は繋がってないけど、ちなみにお仲間さんだよ、風の能力持ってるよ」
白河は更に目を丸くして食い付いて来た
まぁこの学校の生徒なら知らない者がいないと言うくらいメノウ姉ちゃんは有名な人物だからなぁ〜
勿論俺はそんな彼女が自慢である
「そのお話は今度詳しくじっくり教えてください」
「良いけど、メノウ姉ちゃん彼氏いるよ」
『何ですとーーー!!!!!!!???????』
二人の声がピッタリ揃った、異口同音お見事!
「嘘だよ、面白いなお前等〜」
二人が眉間に皺を寄せて俺を睨む、俺はその顔が可笑しくて大笑いした
そう言えばさっきの悩みも何だかどうでも良くなってしまった、ハハハ
+++
放課後―スクールゾーンとはちょっと違う道
学校の近くのバス停横の煙草屋さんの横の自販機
時刻は午後四時半くらい…
空はすっかり黄昏色に染まっていた、綺麗な朱色が自販機の硝子部分に映ってますます夕方を感じさせた
今日のは五月だが少し肌寒い風が吹いている、昼間は風が止んでいたのに帰る頃にはまたビュービューと吹き出した
その所為か空を見る度に何だかセンチな気分になる
俺はさっき買った林檎ジュースを飲み干すと自販機横のゴミ箱に空き缶を放り投げた
いつもなら一発で入る空き缶が今日はカランと地面に落下した、俺はその缶を拾いもう一度ゴミ箱に捨てた
ゴミ箱の中には俺の捨てた空き缶しか入ってなかった、それが今の俺の置かれている状況に似ていて何だかちょっと悲しくなった
普段ならそんなモノに自分を例える事はないのだけれど今日は気分が落ち込んでいる所為か自分が捨てたその空き缶に見えた
丁度色も俺の髪と同じ赤色だったし…
そんな事を考えていると余計に悲しくなるので俺は家へ帰る事にした、今日はミツが食事当番なので楽しみだ
「モミジちゃん今日は一人かい?」煙草屋のばあちゃんが話し掛けてきた
俺はたまには一人になりたくなる時もあるんだよ、と言って笑った
「気ぃ付けて帰んなー」
ばあちゃんは気さくで面白い人だ、いつも煙管を咥えながら小さな窓から顔を覗かせている
俺は時々そのばあちゃんに相談もしていたりする、だけどばあちゃんは「ガキだね〜」と笑って小馬鹿にされるばかりだけど、まぁ変り者である
すっかり空が真っ暗だ
時間も時間だったから走って帰る事にした
暫く走っていると後ろから誰かの気配を感じた
俺は走りながら後ろを見てみた、同じ学校の制服、女生徒だった
部活で遅くなったのかとあまり気に留めていなかった
「早く帰んないとミツに怒られるわな」
「緑っ川さーんっ…!!待ってぇ〜」
誰かが俺を呼んだ、誰だろうと振り向くとさっきの女生徒だった
俺はとりあえずその場で止まり彼女が来るのを待った
緩いカールヘアの華奢な女の子、学年は恐らく同じだと思う、女の子走りで息を切らしながらやって来た
「はぁはぁ…は〜……良かった追いついた、さっき煙草屋の前に居たから急いで追い掛けちゃったよ」
「?…誰?俺に用事?」
俺はいつもなら誰かに呼び止められる事なんてないので珍しいなと思わず首を傾げた
「家に帰る途中に見つけられて良かった〜運がいいわアタシ♪あっそうそう、緑川さんって火群君と同じクラスよね?」
「ミツ?違うけど…一緒に住んでるよ?ミツに用事?伝えておこうか?」
「えっ違ったの〜?って一緒にって同棲?ってな訳無いかっ!え〜でも何で一緒に住んでんの??」
「…う〜んと…色々あってね、でどうしたの?」
「明日家に行きたいんだけど良いかな〜?って」
「家に?別に構わないけど…お前何て名前?クラスは?」
「本当〜!!やった〜wwえっとねアタシの名前は熊田亞璃沙(クマダアリサ)だよ☆クラスは二組ね!」
暗い夜道なのにも拘わらずハイテンションだなと思った
俺は彼女とは対極にテンションが低かったから…
「あ、緑川さんって下の名前何て言うの?」
「へ?…あぁ、モミジだよ、カタカナでモミジね」
「ふ〜んモミジちゃんか、じゃぁモミたんって呼ぶね♪アタシの事はアリサって呼んでね☆」
「…うん、よろしくアリサ、ちゃん」
「も〜かたっ苦しいなぁ〜ちゃんは良いよ、緊張しちゃうー」
「じゃぁアリサ」
「へへへ♪」
何だかよく分からなかったが友達が出来た
明るくて可愛くて女の子らしい彼女、俺は心の中でミツにはこんな子の方が似合いそうだなと思っていた
でも本当は…
+++
家に帰ると心配した顔でじいちゃんが玄関で出迎えてくれた
その手には玉杓子が握ってあった、それから微かに味噌の匂いがした、今夜は何だろう?
俺は「遅くなってゴメン」と笑った
台所にはエプロン姿のミツが居た、パステルイエローのエプロンをした彼は何処か新婚さんの雰囲気を醸し出していた
ミツは男子の割には料理が上手で野菜の皮も器用に剥く、ちなみに得意料理は具沢山のチャーハンだ、でも俺はミツの作った物なら何でも大好きだ
「ただいまミツ♪」
「遅いぞモミジ、一人で帰ると言ってたからもうっちょっと早く帰るものかと思ったらもう六時になるぞ?」
「あはは…今日のご飯は何〜?」
「肉じゃがと味噌汁だ」
ミツは鍋の中の肉じゃがを皿に盛って俺に渡してきた
茶色の紫香楽焼の大皿なので両手で持たないといけない、俺は片手にサブバックを持っていたので傾きながら居間に運んだ
皿の中から肉じゃがの良いにおいが脳髄を突きグゥとお腹の虫が鳴った
俺は居間に皿を置くと洗面所に向かった、五月で暖かくなると風邪の心配はいらないが食中毒になる心配があるのでよ〜く石鹸を付けてゴシゴシと手を洗い
うがいもしっかりとした
「いっただきまーす!」俺は大きな口で肉じゃがのジャガイモを頬張った
辛くなく薄くなく丁度良い味加減で程良く醤油色に染まった野菜が食欲をそそる
とてもお腹が空いていた俺は次から次へと自慢の口に食べ物を放り入れた、その様子を隣で見ていたじいちゃんがクスクスと笑った、何だか俺も嬉しくなった
外は暗くてタダでさえ気が滅入っていたのに家に帰ると明るい所為か気分までも明るくなった
「今日は機嫌が良いの〜朝は落ち込み気味だったから心配してたんじゃぞ〜?」
「あ、あぁゴメン…、あっかそうだ!ミツー明日アリサが家に来るんだけど?」
俺はさっきの彼女の事を思い出し彼に話した
「熊田、亞璃沙…か」
「知ってる?」
「クラスの子か〜?」
「うんにゃー知らない子、でもミツに興味あるみたいだったよその子、ファンじゃない?」
「モテるのぉ〜ミツキは、まっワシだって昔はミツキよりモッテモテだったぞ?」
「そうなの?スゲェやじいちゃん」
「…どんな感じの娘だそのアリサって子は?」
「中肉中背の茶髪かな?ロングだったよ〜顔はアイドルみたいな感じかな〜佐藤亜美子みたいな感じ?性格は明るくて女の子らしかったよ」
「ほぅ…それは楽しみだな、うむ分かった」
ミツは鼻の下を伸ばしてニヤニヤした
真面目そうな見た目とは違ってミツは意外と助平だったりする、あいや助平は言い過ぎだが可愛い女の子は好きらしい
そう思うと俺は彼にどんな風に思われているか少し気になった
「ねぇねぇミツは俺の事好き〜?」
不意に訊ねてみた、ミツはブーと口の中の物を吹き出した
ミツの前に座っているじいちゃんが「汚いぞ!」と怒った
俺はヤバいと思って直に立ち上がり台所から布巾を持ってきた、僅かだったが米粒がお膳に散らばっていた、頬張ってなくて良かったよ
「いきなり何だ…?いきなり」
「いやーメンゴ↓ちょっと気になってね、気にしなくて良いからさ」
俺は濁すように笑って誤魔化した、俺自身如何してそんな事を聞いたのか謎だった
でも、聞いてみたいと思ったのは本当であるが……
ついつい思った事を口にしてしまうのは癖なのだろうか
「…うむ」そう言った彼の顔が心なしか赤く見えた
照れているのかさっき吹き出した時の所為か
+++
時刻は十一時過ぎ…
月が雲隠れしていて空が星だけになった
暗闇に光る星はキラキラと輝いていた
「さっきはミツにあんなこと聞いちゃって怒ってるかな?怒ってるよね〜…ミツーゴメンねぇぇぇぇぇぇーー!」
俺は誰もいないベランダで一人叫んだ
部屋の灯りを消してカーテンを閉じていたので余計に星空がはっきり見えた、それに辺りには街灯がなく殆ど暗闇に近い
「聞こえておるわバカ」
ミツが居た、俺はビックリして振り向いた
彼は頭をポリポリと掻きながら俺の方にやってきた、ベランダの床板は木なので歩くとギシギシと音がする
ミツは俺の隣に立つとポンと俺の頭を軽く叩いた、俺はちょっとムッとした顔でミツを見上げた
暗がりでよく見えなかったがミツは笑っていた
「…あ、あのさー///……」
「好きだぞモミジ」
「へ?」
「さっきの答えだ」
突然の告白
俺は目が丸くなった
「………///本当に?」
「あぁ…」
「っ…俺もミツが世界一好きだよ!」
言ってしまった、でも嫌な感じはしなかった
俺はあの時ミツに助けられて本当に嬉しかった、でもそれ以前に彼に会えて良かったと心からそう思っていた
ミツが居なかったら俺は今頃どうなっていた事か…
俺は嬉しさのあまりミツに飛び付いた
彼は鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔でキョトンとしていた、緊張しているのか動かない
俺は少し背伸びをして彼の唇にキスをした、途中ミツの体が揺れた、その衝撃で唇が離れた
ミツは何も言わずに口を押さえた、俺はちょっと不味かったかなと思ってゴメンと謝った
「ミツ…?」
「……モ、モミジ………//////いきなり何をする…?!」
「何って…えーと…怒った?」
俺は少しおどけた態度で彼に訪ねた
「お、怒ってはおらんが…その…御主さっきのその質問は…そう言う意味だったのか?儂はてっきり…」
「てっきり?」
「友としてだと…」
俺は頭の中が真っ白になった
そう、俺は勘違いしていたのだ
今更ながら自分が情けない
「すみません」俺はそう言って急いで部屋に戻った
嗚呼穴があったら入りたい、俺は布団に潜り込み丸まった、多分俺の顔は真っ赤だろう
「…何だったんだ?ってアレ??」
儂は意味が分からずその場に立ち尽くした
とりあえず部屋に入ろう
+++
翌日―空は晴れていて澄み渡っている
雲一つない快晴だった、だが…
「俺の心は曇天だよっ!」
色んな意味でな
と、一人虚しくツッコんだ、廊下に自分の声が響く
まだこの時間は陽が当らず薄暗かった
「こんな所で何をしておる?早くせぬと遅刻するぞ」
「…ミっちゃん、おうよ」
昨晩の事は忘れたのか彼の表情はスッキリしていた、俺はそんな奴の顔を見ていると何だかムカついてきた
「(…〜何なんだよ!)」
+++
五月十日(火曜日)
今日は一時間目から気分が悪い、精神的なものだったが何だかそれが肉体にも響いているのかイマイチ調子が出ない
その所為か朝ご飯が茶碗半分しか食べられなかった、自分で言うのも何なんだが大食漢なので二杯くらいは軽く食べてしまう
よっぽど堪えたのだろう
「(授業中にお腹が鳴ったらどうしよう…)」俺は小さく溜息を吐いた
「緑川ー次の問題答えろ」
「(これもミカの所為だよ!)」
「おい緑川ー!」
「へ?」
「へ?じゃないだろうっ!次の問題だ前に出て書け」
俺は考え事をしていた所為で先生から指されている事に気が付かなかった
俺は慌てて立ち上がり前に出た
「…せんせーどれ?」俺はボーっとし過ぎていたのでどの問題なのかも分からなかった
数学教師の関根先生は呆れた顔でハァと溜息を吐いた、関根先生は「久保田ーお前代われ」と言って次の生徒を指名した
俺は苦笑いで席に戻った、クラスの皆がクスクスと笑う声が聞こえる、かなり恥ずかしい
「(最悪だし…〜これもミカのー)」もう誰かに八つ当たりするしかこの気持ちを抑えられない、と思う
とりあえず今は親友の所為にしておこう
昼休み―
朝は快晴だったのに空にはどんよりとした重たい雲が掛っていた
「空曇ってきたな」
「ですね…朝は晴れでしたが」
昨日と同じメンバー、見飽きた
違うのは今日は俺の教室で食べているって事だけ
「…華がない、ムサい」俺は荒んだ目で二人を睨んだ
ミツが悪かったなと言う顔をした、その隣のサトシも同じ顔で俺を見た
「空気を悪くしないで下さいよモミジさん」
「そうだぞモミジ、いくら嫌な事があったからって儂等に当たるな」
「…悪かったな〜…はぁ…↓何だかもう色んな事がどうでも良くなってきたよ」
俺はチビチビと弁当を啄ばむ様に食べていた、俺自身ここまで落ち込んだ事はあまりない
と言うか、落ち込むと言うものが良く分からない、恐らくこれが落ち込むと言う事なのだろう
「はぁ…」
「くっらいなぁ〜〜〜!」
と、突如疾風が吹いたか如く甲高い声が入ってきた
俺はその声の主の方を見た、ロングのカールヘア、華奢で細い体
「アリサ?」
「ヤッホ〜♪どうしたの〜そんな暗い顔してぇ〜ほらほらぁモミたん可愛い顔してるんだから笑いなよ☆ね?二人共モミたんは笑ってる方が似合ってると
思わない??」
一瞬にして場の空気が変わった
アリサはニコニコと笑顔で俺達の輪に入ってきた、ミツもサトシもキョトンとしていた
「ア、アリサこそどうしたの?ここ二組だよ」
「遊びに来たの!あっ火群君!アタシは一組の熊田亞璃沙、今日家に行くからよろしくね♪」
「あ…あぁうん、モミジから聞いた」
「本当?あっアタシねぇ〜火群君の事好きなんだよね〜wwと言う訳で放課後はヨロシクね☆★☆」
そう言ってアリサはまた突風の様に去って行った
ミツの口がポカンと開いている
「モテますね火群君…しかもあんな美少女に」
白河が羨ましそうな顔でミツを見る
「いや、いやいや…タダのファンだろう、うむ」
「熊田さんですか〜あ、フッたらお裾訳お願いしますね」
「白河っお前誰でも良いのかよ!」
俺はビシッとツッコんだ
彼はどうらやかわいい娘が好きらしい、メノウ姉ちゃんといいアリサといい…
「それにしても…そう言う訳だったのね〜家に来たい理由って」
「一応言っておくが儂はおぬ
「でもお陰で悩みも吹っ飛んだよ」
「それは何より」
ミツが何か言おうとしていたがあえて聞かなかった
+++
時間が経って放課後…
空はすっかりオレンジ色に染まっている、夕陽が眩しい
休み時間のあと通り雨が降ったお陰で重たい雲も無くなった
俺の気持ちも晴れていた
「モミた〜んww火群く〜んwwww」突き抜けるような声
アリサだ
「アリサ、よぉ」
「じゃっ火群君の家に向かって出〜発☆」
彼女は元気一杯に俺達の手を掴んでルンルンと歩き出した
そんな彼女に感化された様に俺は笑顔になった、アリサは人を元気にする力を持っているみたいだ
俺もアリサみたいになれたらなぁと…
「此処だよ、今日はじいちゃんいないから」
アリサは目をまん丸にして家を見ていた、日本家屋が珍しいのか辺りをジロジロ見ている
彼女の行動一つ一つが同性の俺から見てもとても可愛く見えた、まぁアリサは見た目も可愛いんだけどね…
「お邪魔しま〜す♪へぇ〜ココが火群君の家か…でも如何して転校してきたのにこんなに家が古いの?中古?」
「あ、いや此処は知り合いの家なんだ、俺は居候だ、モミジもな」
「ふぅ〜んそうなの?…じゃぁモミたんも知り合い?親戚とか??」
「モミジは親戚じゃないよ、コイツは拾いモンだ」
「おい誰が拾い物じゃ」
俺はミツにツッコんだ、だが見事にスル―された
おのれ〜…
「意外と中は広いのねぇ〜良いなぁアタシの家中古で狭いから広い家って羨ましいなぁ〜ねぇ火群君の部屋ってどこ?」
「ん?…あぁ二階だ隣がコイツの部屋だぞ」
「そうなの?…良いなぁ〜」
アリサは明るくて人を元気にするが俺は何だか段々腹が立ってきた
「此処だよ俺の部屋」
「わぁ〜ww何コレ??何コレ??中国みたいなタンス?おもしろ〜い☆」
彼女はミツの部屋に入るなり手当たり次第その辺の物を触りだした
ミツはそんな彼女に注意の一つもしなかった、それ所かニヤニヤといやらしい顔でアリサを見ていた、正直ムカつくっ!
「折角来たんだから一緒に宿題しないか?モミジ、ジュース持ってきて」
ミツはアリサに向けた表情とは違う表情で俺にそう言った
凄く嫌だったがアリサが居たので仕方なく彼の指示に従い台所に行った
冷蔵庫にはコーラが入っていた、俺は思わずミツのだけ醤油に摩り替えちゃおうかなと思った
ちょっと本気で(笑)
+++
「…熊田…///その、近い」
ピッタリ、熊田は儂の目の前に鎮座している
グィ、彼女は儂の顔に自分の顔を近づけてきた、大きな瞳がジッとみつめる
儂はその瞳に見つめられてドキドキしていた、どこか異国の雰囲気を漂わせる彼女の顔は幼さと大人っぽい色気があった
中学生の儂にとってそんな女子がこんなに近くに居るとどうかなってしまいそうだった
「ねぇ…チューしていい?アタシ…ガマン出来ないよぉ〜…」
「ちょっちょっちょっちょーっ///」
「ねぇ火群君……っきゃんっ!!」
突然熊田が叫んだ
「ミツっお前何やってんだよっ!!!」
モミジだ、彼女は凄い剣幕で怒っていた、一体…?ん?
「もぉ〜モミたん何するのよ〜?!」
「それはこっちのセリ
「熊田御主…?」
儂はハッとした、何故なら儂の目の前に居る熊田が頭から何やら茶色の液体を被って濡れていた
いやそれよりも…
「その耳…その姿…御主、妖か、やはりそうだったのか、儂の家にまで上がり込んで来るとは怪しいと思ったが」
「嘘つけ!鼻の下伸ばしてた癖に…って気付けよバカっ!」
すまぬと彼女に謝った
しかしこの妖、儂の弱点を突くとは…やるな
「て言うか何コレ〜??しょっぱっ!醤油〜?信じらんないんだけどぉ〜」
「御主…白猫(ビャクビョウ)か?何故儂を狙う?」
「そうよアタシは白猫よ!アンタを狙う理由?別に〜ただ興味があっただけよ?同じ年の男の子がアタシより強いのかなって、でも全然ね〜つまんないわ」
熊田は嗤って儂を見る、儂は恥ずかしくなって熊田を睨んだ
「アリサお前…はぁ、はは…でも良かったよミツの事が好きじゃなくてさ」
俺はフゥと安心して息を吐いた
思わず笑いが出た
「…て言うかモミたん怖くない訳〜?」
「別に慣れてるって言うか俺もだし」
そう言って俺は鳳凰に変化した
俺の体が一瞬朱色の焔で包まれる、それを見たアリサは「え?」と言う様な顔をしていた、どうやら俺が妖怪だって事は気が付いていなかったらしい
「…ぅそぉ〜??えー何コレ何コレっ?!モミたんも妖だったの〜〜??え、でも妖気しないけど?ん??」
彼女は首を傾げて眉間に皺を寄せた
するとミツが「モミジは妖ではなく妖怪だ、だから妖気が感じられなかったんだろう」と
アリサは「なるほどね〜」と納得の表情を浮かべた
「って??……妖怪??人型なのに妖怪なの??て言うか何の妖怪??赤い羽根って…?」
「御主妖の癖に何の知識も無いんだなー…モミジは鳳凰、四聖獣の一匹だ」
「ほうおう…鳳凰っ???!!ってあの鳳凰様??……ぇ何で人型なの??」
「それは…」
ミツは俺を見た、正直な所俺も良く分からなかったので首を横に振った
「そう言えば俺が鳳凰って分かった時こんな夢見たっけ?…異次元空間みたいな所に赤い火の鳥がいてそいつがミツの姿になって」
「何だその話?聞いてないぞ」
「あぁ…別に良いかなって、えっとそれでねー…あー能力くれたな、そん時チューされたうん」
俺はあの日見た夢の内容をざっくりと説明した
ミツが目を細めて俺を見た、その額には見えない汗が見えた、気がした
「能力を貰ったって…??そんな事が出来るの〜?」
「さぁ、でもあの時俺本当は最初から自分の正体を知っていた感じがしたんだよね…何て言うの血が教えてくれるみたいな?」
俺はまたざっくり説明した
自分自身も良く分からなかったので曖昧な表現で話した、アリサはイマイチ分からないと言った表情でクエスチョマークを浮かべた
「…儂の姿で御主に接吻って…いつもと逆だな」
ミツが腕を組んで首を縦に振る
俺は「そうだっけ」とおどけた
「…ふぅ〜ん二人ってそう言う関係なんだ??な〜んだ最初からアタシが入れる余地なんて無かったじゃない?」
「熊田?…あっいやこれは違うぞっ!!モミジは外国人だからその、アレだスキンシップ?だよなモミジ?」
ミツは焦って弁解をしている
俺は「さぁ?」と首を傾げて微笑んで見せた、彼は一瞬にして顔が紅潮した
「あっ!もうこんな時間??やっばー…ごめんアタシ帰るね〜」
「熊田?」
「アリサー服は良いのかよ?」
「服?…あぁ〜ははは…良いよだってこれアタシの所為だし」
そう言って彼女はそそくさと部屋から出て行った
彼女が居た辺りから醤油の匂いがした、臭い…
「…まるで嵐だな」
「まっ出会いからして変だと思ったけど、それにしてもミツ!お前もお前じゃぃっ!!」
「アリサがちょ〜っと可愛いからってデレデレしちゃってさー…ミツってあんな娘がタイプなのか?」
「っ///わ、儂だって一応男子だぞ!!言っておくがあんな娘は…まぁ可愛かったけど…」
ミツがニヤニヤした、俺はムカついたので思わず頭を軽く蹴った
「痛っ!モミジー…御主?」
「べ、別に妬いてるとかないからなっ!」
「ぷっ…はははっ御主顔が真っ赤だぞ?」
そう言ってミツは立ち上がって俺の頭を撫でてきた
何だか俺は照れくさくてすっごくドキドキした、それで俺は「あぁ俺ってミツが好きなんだ」と小さく自覚した
毎日一緒に居るからあんまり感じなかったけれど…
「なぁミツ、俺やっぱミツが好きだ」
目の前の彼がまた真っ赤になった
俺は何だか嬉しくてクスクスと笑った
今日は良い日だ
余談だがその数日後、ミカから話しかけて来てくれた
何だか最近は色んなモノに裏切られっぱなしだな〜(苦笑)