第廿話【妖怪



4月30日―金曜日
の放課後、俺達はミツ達の教室(二年三組本馬クラス)でミカとショウと駄弁っていた

「何だまだ居たのか?もう六時になるぞ」

教室の扉を開けて入って来たのは我がクラスの学級委員長だった
彼は俺達の顔を見るなり表情を緩めて近づいて来た

「やぁミツキおかえり、委員会の仕事は終わった?」
「あぁ漸くな…篠村が抜けて代わりの顧問が決まるまでは会長が何とか代役をするそうだが…何とも」

そう言ってミツキはポリポリと頭を掻きながら苦笑いした

「生徒会長って確か禊勇菜(ミソギユウナ)先輩だっけ?三年の」
「あ〜あの頼りない先輩ね、大丈夫なのかしら?」
「問題はそこではない…問題なのは……」
「問題なのは?」

「なっかなか次の顧問が決まらない事だ!他の教師共は儂等生徒会だけで何とか出来ると思い込んでおる…儂等は普通の中学生なのに…」
「まぁまぁ…、篠村先生を辞職に追いやったのは生徒会じゃないんだから」
「ぁん?遠回しに俺とミカが辞めさせたみたいな言い方すんなよな!」
「そうよ!あの時モミジが体張ってやっつけてくれてなきゃ私達今此処に居ないんだからねっ」
「ゴ…ゴメンナサイ」

ショウは気不味そうに俺達の方を見た
ミカの眉間には皺が寄っていた

「……はぁ、愚痴っててもキリないな、帰るか」
「さっ賛成っ!!」

僕は空気をブチ破るように大声で叫んだ、背後の視線が気になる所だが…


「まだ居たんですか?」

突然聞き覚えのない声が聞こえた

「…誰だお前?」
「あっ白河君」

白河聡(シラカワサトシ)君、一年生の頃同じクラスで学級委員だった白河君だった
でも何で彼が此処に?

「何で覚えてないんですか?!火群君っ!!三ヶ月も一緒のクラスだったじゃないですか?」
「知らないものは知らない!ってそのシカラワが何で此処に居るんだ?」
「シ・ラ・カ・ワですっ!!全く全く…」
「でぇ〜その一組の白河聡が二組に来てんのさ?先生なら居ないよ〜」

白河君はハッと我に返った表情で咳払をした

「そうでした。緑川モミジさん、明日の放課後別棟の屋上に一人で来て貰えませんか?」

彼は真顔でモミジの顔を見ていた、その目は揺るぎない

「(うっそ〜あの堅物がモミジを個人的に呼び出しぃ〜!?)」
「(まさか告白っ?!白河君の好きな人って…)」

「いいけ
「如何言う
了見だ?」

突然ミツキが話に割って入って来た、一瞬で空気が乱れる
白河君は直様ミツキを睨んだ、当然だ
しかしミツキも負けじと白河君を睨み返す

「貴方には関係ないでしょう?」
「関係大有りだっ!モミジは俺のっ

「ミツっ!…良いじゃん行ってやるよ?明日の放課後な、お前こそ忘れんなよ白河」

「あのぉ〜…話の腰を折る様だけど、明日は土曜日よ」
『あっ』

俺とミツ達は声を合わせて顔を見合わせた
そうだ明日は休みだ

「…では、月曜日の放課後。お待ちしていますよモミジさん」

そう言って白河は教室を去って行った


+++

「それにしても何の用だろうね?」

僕は知らない素振りでミツキに話しかけた
まぁ恐らく「愛の告白」だとは思うけど、ね

「分かった顔して聞くでない、白々しいぞショウ」
「機嫌悪いね〜…あっミツキはモミジの事が好きだもんね〜そりゃ気になるだろうね」

僕はもう空気なんか読まないではっきりと意見を言ってみた

「あぁ確かにモミジの事は好きだ、だかしかし他人の用まで気にする様な男じゃないぞ儂は」
「そう言いながらものすっごくソワソワしてるよねミツキ、手震えちゃってるし…」

彼は大人っぽい振舞いをするが感情や思いは良く見た目に出てしまうタイプである
ミツキはさっきから隣にいるモミジの方ばかり気にして見ている、その所為でさっきから何度も躓きかけていた
本当、分かり易いヤツだなキミは(笑)

「ねぇスルーしちゃってるみたいだけど、今物凄い事暴露してなかった?」
「俺、ナチュラルに告られたよ」

「…っ///違う違う違うっ!!!!!!今の好きは友としての好きだっ!第一こんなメスゴリラかチンパンジーみたいな女好きになる訳がなかろう!」

「でも一応女の子としては見てるのね(笑)」
「よぉミツ…今日の夕飯と明日の朝飯と昼と夜抜きな」
「なぁっ!!す…すまぬコレはそのえっとコレは…」
「もういい俺先帰る!」

モミジはプゥと頬を膨らませてスタスタと早歩きで帰って行った
その後をミツキが追う、その様はまるで夫婦である

「フフフ…楽し〜♪…この間峠でキスしちゃってた癖にフフ」
「それは僕等もだけどね…///」
「あら、そうだったかしら?」
「そう言う所は嫌いじゃないけどね」
「それは好きと受けとって良いのかしら?」

「そうしてくれると助かるよ」


+++

「だ〜っ!!離れろぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!!そんなに密着されちゃ歩けねぇーし!」

月曜日の放課後、俺は白河の言う通り別棟の屋上に向かおうとしていた
しかしミツによって阻まれていた

「行かせぬわっ!!いや行かないでくれモミジ!」と涙ながらにミツが俺の腰に抱きついて放してくれない
教室からここまで全く離してくれない、正直

「ウザいっつーの!!馬鹿ミツ」俺は両肘鉄でミツの脇に一発入れた

「アガっ…!?あっモミジっモミジィィィィーーーーーー!!!」

ミツの声が廊下に木霊する、お前は犬か


+++

「き……来たぞ白河っ…ハァゼェ……」

やっとの事で別棟の屋上に到着した
ダッシュで駆けて来たので息が切れてしまった、屋上の階段は普段は生徒は立ち入り禁止で中に入れないように黄色と黒のロープがしてある
俺はそのロープを掻き分け猛スピードで階段を上ったのだ、だってゆっくり登っていたらミツが追いついてしまうからな…

「遅くなって悪かったな…ミツがくっ付いて離れなくてさ」

俺はフェンスにもたれ掛かる白河の所に歩み寄って行った、彼は腕を組んで俺の方を見ていた
半分くらい進むと白河も俺の方に近づいてきた、その顔は優しい顔付でニコニコと微笑んでいた

「構いませんよ。火群君はモミジさんの事が大好きみたいですからね…」
「で、俺を此処に呼び出したって事は……」
「えぇ、貴女の予想通りですよモミジさん」

と彼が言った瞬間、一瞬視界が遮られた
ゆっくり瞼を開くとそこは

…?何だよ」

俺がそう呟いた直後バシィンっと何者かに吹き飛ばされた
体が宙に浮く、幸い後ろにはフェンスがあったお陰で落下する事は無かったが何分別棟の校舎は建物自体も古く、強い衝撃を受ければフェンスごと
地面に落下してしまいそうなほど脆い

「あってぇーっ…誰だぁっ!!!!」俺は大声で叫んだ
霧の中薄っすらだが何者かが俺の方に向かって歩いて来るのが見えた

「ご心配無く…私ですよ」

学ラン姿に
の耳を生やした男
その奇怪な姿はまさに…

「妖か…」俺は警戒して拳を構え体制を斜に構えた
この学園で妖を見るのは二度目、一人いればもう一人いると言う事か…俺は奴が近づいて来る前にと鳳凰に変化した

「妖…いえ妖怪と言った方が正しいでしょうか、ね。モミジさん」

そう言って奴はニコリと笑い俺のすぐ目の前までやって来た

「…その声、その成り白河か?」
「ご明答。正解ですよ、流石ですねそれにしてもその姿…」

奴、白河が右の手を挙げた、俺はすぐさま交わす態勢に入った
額に汗が流れる

しかし白河は、殴ってこなかった
それどころかその右手で俺の頭を撫でてきたのだ、ぐりぐりと何度も撫で回し更には自分の胸板に俺の顔を押し付けてきたのだ

「ちょっ…白河??いきなり何すっひゃっそこはダメぇっ///くすぐったい!」

頭だけではなく、耳や首、肩までも撫でくり回されて俺の戦意と警戒心はすっかり奴に打ち砕かれてしまっていた
俺はまるで飼い猫か飼い犬の様に白河に良い様にされていた、悪い言い方をすれば虜である

「あンっ///背中はダメぇっ…あは…///ちょっしらかわぁ〜…」
「やっぱり可愛いですね♪モミジさんは。私モミジさんが好きです。死ぬ前も死んでからも生き返っても…ずっと」
「あっ…///…そんな所に手ェ入れちゃ………嫌っつてんだろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

ドォォォン

俺は白河をっブッ飛ばした、これ以上は流石に限界だった

「イテ…」
「ハァ、ハァ、ハァ…何女子のパンツに手ェ入れようとしてんだよあぁぁぁ??!!」
「…おや、術が解けてしまったみたいですね…ハハ…」

「今のセクハラが術か?ざけんな死ね!」
「セクハラはただのセクハラですよ。ちなみにこの霧は氷霧(ヒョウム)、私は大気、自然を操る木の属性の妖です」
「木…ん?死んでからも?」

俺はさっきの奴の台詞を思い出した
意味が分からない

「ええ…死んでからも、ですよ」

俺は拳を構えた、やっぱり奴は、敵だ!

俺は危険を感じ奴を殴った、数発殴った所で奴の動きが止まった

「死んだか?」俺は念の為もう一発殴ろうとしたその時

「モミジィィィィーーー!!大丈夫…か?」

突然ミツが乱入してきた、瞬間辺りにあった霧が消えてゆく

「ミツ…?あぁ敵は死んだぞ!!」
「敵?……って白河??ぎゃーっ血みどろ????!!」

ミツは俺に殴られて真っ赤になった白河を抱え上げて必死に名前を呼んでいた
その時の奴にはさっきの耳は無かった

とりあえず怪我をした白河を(ミツが)背負って保健室へ連れて行った、道中会話は無かった
しかしミツは時々俺を睨んでいた、視線が痛い


+++

「…〜何で敵を手当てしなくちゃならねぇんだよ?そいつ俺をいきなり襲って来たんだぜ?」

丁度職員会議があっているので養護教諭の益田先生が不在だった
俺はミツに言われた通りに怪我をした白河を手当てしていた、薬はとりあえず名前の分かる軟膏を塗って業務用の大きな絆創膏を貼り
その辺のワゴンに置いてあった包帯を巻き付けた

「殴ってきた?どう見ても御主がタコ殴りにしたようにしか見えなんだか」
「冷やっこい視線送るなよ〜…怖ぇってば」

怪我は主に顔、白河の顔はまるでミイラ男みたいになっていた

「幸い歯は折れて無かったようだが、御主彼奴の親に訴えられたら不味いぞ?」
「い”ぃ”っ!!?…ヤベェ…どうしよう??」

「訴えたりなんてしませんよ…」

と言ってさっきまでベッドで横たわっていた白河が声を出した
俺は思わず彼に飛び付いた

「良かったぁ〜」
「モ、モミジさんっ///??!」

白河はバッと起き上がると立ち上がりスカスカと窓の方へ歩いて行った

「不意を突かれてしまうとは私とした事が…」
「白河…お前、話はモミジから聞いたぞ」

「話?」彼はミツの方を見た、ミツも白河の方を見た

「御主、妖だそうだな?しかも正体をバラして告ったは良いが思いっ切りフラれたそうだな」

包帯の隙間から白河の目がまん丸になっているのが見えた

「…聞きましたか、烏天狗。えぇ見事に玉砕しちゃいましたよ、貴方という壁に阻まれてね」
「儂の正体に感づいておったか…、兎の妖だったな御主?」

「月兎(ゲット)、それが私の正体です」
「聞いたことが無いぞ!兎の妖など…?異国の妖か?」
「当たり前ですよ…。月兎は私以外ませんからね…生き返ったあの瞬間から私は妖怪として生きていますから」

「それなんだよね〜そ、れどういう意味なんだよ?」
「知らないのも無理は無いですよね…、ではご説明しましょう。これは私が小学二年生の時の事です。私はあの頃はまだ九州に居ました、モミジさん
貴女と同じクラスの同級生でした。その年の夏休み前日、モミジさんは転校して行きましたよね?」

「…??あ、あぁ確かに俺は小二まで九州にいたけど?同級生だったのか?」
「覚えていませんか…叶さんとも一緒だったじゃないですか?…まぁ私はその頃は貴女達とは話した事がありませんでしたからね」

モミジ、九州に居たのか、色んな場所をたらい回しにされてきたと聞いていたが初耳だった

「…んとー白河?…あっドジのサトちゃん!」
「ドっ…!」
「それともマヌケのサトちゃんだったけ?ダメダメだっけ?」
「そこは思い出さなくて良いですってばっ!!!…はぁ、でも思い出してくれて良かったです」

「ま、それは置いておいて。話は夏休みが始まって一日目、悲劇は起こったのです」







「私…あの日交通事故に遭って死んだんですよ」


俺は鳥肌が立った