第壱拾九話【下剋上】
4月26日月曜日―の放課後
IN職員用玄関
俺とミカは篠村真人を叩き潰す作戦を決行するべく職員用玄関に来ていた
時刻は四時半…
この事は勿論二人に告げてある、しかし肝心のミツがまだ篠村に対して怯えていた
まぁ、無理も無いが……
「…ねぇモミジ、そんな作戦が大の大人に通用するかしら?確かに私達が考えた作戦は完璧だと思うけど…果してそれがあの頭脳明晰な大人に
「ミィ〜カァ〜ち〜ん、そんな心配はいらんぜよ♪第一俺はハナっから作戦が成功して欲しいなんて思っちゃいないしね〜」
「え?」私は耳を疑った、だって私とモミジは彼の為にこの二日間篠村真人に復讐をするための作戦を一生懸命考えていたのに
なのに「成功なんてして欲しくない」って…どう言う
「っ…ふざけないでっ!…モミジは火群君の事が大事じゃないのっ?!」
「…ミカ?……そりゃアイツは大事、大切なヒトだよ?」
「だったら如何して成功なんてして欲しくないなんて…」
「にゅ〜んvそれも作戦の・ウ〜チ♪」
「はぁ?」私は意味が分からず呆れた
「…如何言う事よ?」
「そー言うこと♪」
私達が考えた作戦とは―
1:先ず、私orモミジが篠村を屋上に呼び出す
2:そこに火群君が待っている
3:篠村先生が驚く
4:その隙にモミジが篠村先生を背後から思いっきり蹴る
5:篠村先生K・O(knockout)
でしょう?」
「そうそう…でもこれだとどう考えても100%失敗するデショ?だって篠村は大人だし運動神経が良いんだもの〜」
「…それって二日前にも私が言った様な…ぇ?じゃぁどうするのよ?今更練り直しって言っても時間なんて無いし…」
「フフ腐…だ〜から♪この作戦は点前、ココまでは小学生(ガキ)の浅はかな考え…だって大のオトナがこんなベターな作戦に引っかかるなんて先ずありえねぇ〜
し」
「じゃぁ…?」
「3:篠村が驚く、4:篠村が馬鹿らしいと屋上を去ろうと階段を下りる、5:その隙を狙って突き落とす!…が本作戦って訳w」
「うっわ…ひっきょうってそれって下手したら死んじゃ…」
「6:奴を落とす着地ポイントにミカ、ミツ、ショウが構えてる、7:篠村は助かるがそこで私刑(リンチ)♪、8:篠村が土下座するがそれを許せない
ミツは…、9:筋○バスターを喰らわせるっ!」
「…それって滅茶苦茶難しくない?」
「そ〜ね…じゃぁ屋上に呼び出して速攻リンチで良いんでね?」
「って5から必要無いの〜?!…ま、それが上手く行けばだけど…」
「おやおや君達、放課後だと言うのにこんな所に居るなんて…用が無いなら帰りなさい」
っ?!
俺はハッとして振り返った
何とそこには今話していた篠村が立っていたのだ
「(いつから…?)…篠村先生こそこんな所で何を?」
彼は腕を組み剣呑な表情を浮かべていた、何があったのかは知らないがとても不機嫌そうである
「いや…何もナイさ、そうだ君達今から時間はあるかい?良かったら少し私に付き合ってくれないかな♪」
そう言った彼の表情(カオ)は剣呑から笑顔になっていた、俺はその顔がとてつもなく恐かった
「一体何なんですか…?」
「良いですよ、丁度暇を持て余していた所ですから……」
「(モミジ…?)」
「それは良かった…ボクは誘いを断るヒトが嫌いだからね……クックック…」
+++
俺とミカは篠村に付いて行った、学校を出て彼の車に乗せられた、赤いスポーツカーだった
隣に座っているミカは車に乗った瞬間に顔色を変えずっと俯いていた
俺はミカに小声で「如何したんだ?」と訊ねた、しかし彼女は下を向いたまま黙っていた
「(…ミカはカンが良いからなぁ〜、まっコイツのしそうな事くらいミツの時で既に分かってるし、とりあえずミカには悪いけどこの茶番に付き合ってやろうじゃ
ねぇか…)」
俺には篠村がする事が最初から分かっていた
この男は多分だが八つ当たりをする気だ、それもフツーのガキじゃ抵抗出来ない様な
「(でも運が悪かったな…ミカは兎も角として俺はお前が思ってる様なフツーのガキじゃねぇんだよ)」
暫くすると学校の裏手にある轟鬼峠(とどろきとうげ)に入った
「せ…先生……ここって轟鬼峠ですよね…?」
ミカが震えた声で篠村に訪ねた、その顔は蒼白で瞳は虚ろっていた
「…この峠に最近オシャレなカフェが出来たんだって〜、ホラ女の子ってそういうの好きでしょう?ボクね都心から来たからそう言う自然に囲まれた
お店とかって好きなんだよね♪」
「…それって確か、グリーンベルとかって名前でしたよね…?」
「そうソレ♪さすが女の子vそう言う事に関しては詳しいよね」
「は…半年前に出来たばかりで…開業して三ヶ月で潰れちゃった…ハズ」
「ん?…まさか、だって
「だ…だって…そのグリーンベルってカフェは…うちの…アチーブ貿易財団グループが…所有していたお店なんだもの…」
「へぇ…そうなの?でもさぁ……潰れても店の跡くらい残ってるでしょ…?」
「っ篠村ぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!テメっ………はっ、やっぱなー………まっ俺には最初からお前が俺達に何をするか分かってたぜ!!」
「………実に面白くないねぇ、ボクはね君みたいな頭の良い子が娘が大っ嫌いだよ!!!!!!」
そう言った奴の顔はまるで鬼の様な形相をしていた
その顔を見たミカはヒィっと小さく悲鳴を上げた
篠村は急速にスピード上げ更に峠道を登って行った
暫く走ると左脇にある小道に入った、その道の入口には『GReenBEll』と英語で書かれた木製の看板が立ってあった
スピードは毎時70強を超えていただろう、景色が流れるように見える
二分くらい走った先に小さなログハウスが見えた
+++
辺りは鬱蒼と生い茂った草木が山の木々が邪魔で殆ど射さない陽の光を遮っていてとても薄暗かった
時刻はもうすぐ午後五時くらいだろうか、山の上の方にはオレンジ色の夕陽が見えていた
俺はその黄昏の空を見た瞬間にゾッととてつもない恐怖心を覚えた
「さぁ着いたよ…いこうか」
篠村は俺達に手を差し伸べて来た、しかし俺もミカも奴の手には全く触れなかった、篠村は「残念」と言って笑った
店内には簡単に入れた、それもその筈、何せ此処は既に三ケ月前に廃墟と化しているのだから…
店の壁のあちこちにはスプレーやラッカ―で死ねやら下劣な言葉が辺りそこらに乱雑に描かれていた
「…篠村先生、いや篠村…やっぱ俺達って此処でお前に殺されんの?」
「?…もしかして命乞い?ハハっ…威勢が良いと思ったけどやっぱり緑川さんも普通の女の子だね〜カワイイねぇ♪」
「でも…無駄だよ?だって…今ボクはとっても機嫌が悪いんだから……」
そう言って篠村は自身の着ているジャケットのポケットに手を突っ込み何かを取り出した
バサリ、床に垂れるように落ちたそれは白く太く長いロープだった
篠村は垂れたその白いロープを手繰り寄せピンと張った、彼はコキと頸を鳴らしゆっくりと俺達の方へ歩み寄って来た
奴の眼は冷たく氷の様だった、その顔に表情は無くただ口だけは口角を尖らせニヤニヤと嗤っている
「……狂気に満ちた瞳(め)、本気で俺たちを殺すつもりだな?」
「モミジ…」
カタカタと体躯を震わせながらミカが俺の腕をグッと掴んできた
彼女は小声で「恐い…」と呟いた
「うんコロスよ♪…だって今ボクはとっても機嫌が悪いんだからね……」
篠村はそう言うと猪突猛進で向かって来た!
ドドドと乾いた木の床が轟音を上げている、それはまるで鬼が襲って来るかの如く
俺は隣で震えているミカの腕を掴んでその場から走った
ガラスが割れて骨しか残っていない大きな窓から這い出て俺達は来た道を猛突進で駆けた
しかし、振り向けばそのすぐ後ろを篠村が鬼の形相で追い掛けて来ていた
篠村は国語の教師にも拘らずまるで体育の教諭、いや暴走列車の如く形振り構わずに向かって来た
「っ…はっ…噂通りっ…ハンパねー運動神経してらー」
「……っモミジっ!どうしよう………殺される」
「心配っすんなぁーって…らって俺達にはアイツに貰った切札があんじゃねーかっ!!」
「切札…っ?…あっ!!!」
俺達は走るのを止めた、篠村も同様に走るのを止めた
「…ん?如何したのさ?もしかして降参してくれたのカナ…?」
「ミツにはマジ悪ぃけど…ここでこの力使わなきゃもう二度とお前に会えなくなるからなっ!堪忍しろよ!!」
「チカラ?…恐怖に耐え切れず夢みたいな事を言うんだね〜言って置くけど…例え君達が魔法を使えたとしても大人の僕に子供の君等が叶う訳が無いんだよ?」
「そ〜れは…どーかなっ!!!!!!!!!!!」
ヴォオゥッ!!モミジはニヤリと笑うと身体中が一瞬にして紅い轟焔に包まれた
「!?」
「っ…人体発火?!」
その焔は瞬く間に消え彼女の背中に紅く大きな翼が現れた
そうこれはモミジの本性…
「ちげぇーよ…妖鳥・鳳凰だっ!!」
「ほう、おう…馬鹿なっ…いやこれはただの張りぼてデショ?」
「ふぅん…そう思う?」
バサリ…モミジは翼を広げタンッと地を蹴った、瞬間彼女は空を舞った
モミジはバサバサと羽音を立てながら更に上昇してゆく
流石の篠村先生もこの光景に目が点といった表情をしていた、それもその筈だってモミジは本当に力を使ったのだから
ボトリ、篠村先生の手からロープが落ちた、その手はガクガクと震え額には血の気が無かった
「形勢逆転♪て言うか〜絶体絶命?」
「っ…うっ嘘だぁっ!!!!!!!!!!!!こっ…これはただの手品だっ!!第一人間が子供が空なんか
「飛べる筈ない?…そりゃ〜人間ならね♪」
「はぁ…?」
篠村は混乱の表情を浮かべていた、無理も無い
「だって…俺人間じゃねーもん♪バ・ケ・モ・ン・だ・も〜ん」
「行くぜぇぇぇぇっ!!!!!!!」
ビュンッ!モミジは一直線に篠村先生に向かって急降下した!
彼は驚愕の顔でその場から動けずにいた
モミジはそんな動けない彼の両肩をグッと鷲掴み頸を思いっ切り身ごと噛み千切った
篠村先生は突然の事に表情を変えられずにただ蒼白な、まるで何もできない子供の様に立ち尽くしていた
「………」
「オイオイオイオイっ!!さっきの威勢はどーしたよ?何だよ〜まさか俺がこんな姿になってしかもオメェの頸ぁ噛まれるなんて思っちゃいなかったってか?ハハっ」
「…ルナ」
「あ?何だよ声が小さくて聴こえねぇーよ?」
「…ザケルナ…フッザケルナァァァァァァァァァァァァァっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「っ???!!!」
篠村は俺の挑発に完璧にブチ切れていた
まぁ、冷静に考えればいきなりこんな事が起きれば誰だって奴の様になってしまうだろうが
しかし俺はそんな篠村のブチ切れなんか見事に無視して手負いの奴に更にもう一回攻撃を加えた、今度は先程噛み千切った場所に蹴りを入れた
篠村は「ギャァァァァァっっ!!!!!??」とまるで子供がお化けでも見たかの様な情けない悲鳴を上げてその場に倒れ伏した
奴はあまりの痛さに気絶寸前になっていた、が俺はそれでも奴に攻撃をしようと上昇して加速を付けた
ヒュンッ!!
俺は右の拳に朱色の炎を纏わせ篠村を完全にロックオンした
「ア”ア”ア”ア”ア”ァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
あと1m
しかし
パスンっ!?
「っ………バカっ!…何こんな奴に本気になってんのよっ!!!」
と、突然ミカが俺と篠村の間に割って入ってきた、ミカは素手で俺の拳を受け止めていた
彼女の手は俺の炎で真っ赤に燃えていた
「っ……っつい……っ!!!」
「ミっ……ミカぁー!!!??」
「…っとにバカなんだからぁ……今のアンタ本当に化物みたいよ」
そう俺に言うとミカはフンと手を振って炎を消し去った
そして、
「見てご覧なさい…彼既に気絶してるわよ?だからもうアンタが攻撃したって意味無いの…そんな事よりも早く家に帰りましょう」
「私疲れちゃた」とミカは肩を落として大きく息を吐いた、俺も「そうだね」と言った
+++
時刻は既に六時半を過ぎていた、辺りはすっかり暗く空を見上げると星が見えた
「もうすぐ五月とは言え夜は冷えるなぁ〜寒い…」
「本当ね〜…ねぇ来る時は感じなかったけれど、轟鬼峠ってこんなに距離あったかしら…?さっきから2時間は経ってるわよね……」
俺もそう思った、普段こんな山道は車くらいでしか通らないからこうやって徒歩で通るとなるとその何倍も時間がかかる
考えれば当然のことだがやはり歩きで帰るのは無謀だ
「猪とか出て来たらヤバいな…」
「止めてよ…う〜それよりもさっきからずっとケータイが圏外のままなんだけど…今どの辺りなのよ…」
行けども行けども続く道路、後ろを見ても前を見ても同じ景色
あるのは古びた標識くらいだった
「つーかさ…来るときこんな道通ったっけ?俺結構方向オンチだからさーミカ覚えてる?」
「ゴメン私車の中でずっと俯いてたから…ぇ?」
「今何て?」
「だーから俺方向オンチなの、運動は得意だけど」
「…ちょっと待ってよそれってヤバくない?」
「ミカってここの道良く知らねーの?俺知らない」
「わ、私だって知らないわよっ!て言うか私も方向オンチだし」
「ぇ?ええええええぇぇぇぇぇぇーーーー???!!嘘だろー?!え?ちょっと待ってよじゃぁ俺たちって…まさか」
「止めて、それ以上言わないで(逃げたい)」
「迷子ってやつかよー!!(叫)」
「ぎゃぁぁぁぁぁーーーー!!!!(助けてぇー)」
「大丈夫っ!!?」
「ぇ?」何処からか聞き覚えのある声が聞こえてきた
俺達はドキドキしながら暗闇の中その声の主を探した
「御主等…良かった……心配したんだぞ」
「……ぁ、あっあぁぁーーーー!!!!!!!!!!ミツっショウっ!!!」
「木村君火群君っ?!…な、何で二人が」
暗闇の中前方からミツといショウが歩いて来た
俺達は顔を見合わせニッコリと笑った
「やったぁーーーー!!!ミカーお家帰れるよ!」
「うん!」
そう言って俺とミカは二人の元へ駆けて行った
俺もミカも渾身の力で走った
「みつぅ〜〜〜〜〜…逢いたかったよぉ〜」
俺は真っ先にミツの胸に飛び込んで行った
暗い山道の所為ですっかり気持ちがナーバスになっていたのだ
彼は優しく俺を抱きしめてくれた、すごく温かかった
俺は思わずミツの唇にキスをした
「ぅわぁ〜〜ん…あいたかったよ」
叶さんが泣きながら僕に抱きついて来た
その目からはまるで滝の様に沢山の涙が溢れていた
僕はそんな叶さんを何も言わずにそっと抱きしめ頭を撫でた
「っ…もうね…会えないんじゃないかって思ってた……二人とも道知らなくて…怖かったよ」
「大丈夫!もう君を離さないから、僕はずっとここにいるから…」
「うん…約束だよ?」
「あぁ」
そう言って僕は叶さんとキスをした
好きなのかは分からなかったけれど、多分その場の雰囲気で…
「…///ゴメンね」
「ううん///」
今の事はの二人にはバレていない様だった
僕は小さく聞こえないように息を吐いた
「モミジー火群くーん帰ろう!」
そして俺達の長い一日は終わった