第拾漆話【逆】


時は新学期、俺達は中学二年生になった
今日は四月二十三日の金曜日、天気は雲一つないピーカン晴れ
これで桜が咲いていれば完璧だが、残念な事に四月の終わりではもう桜の花弁は散り気味である

そうそう、二年になった俺達はクラス替えをして見事に散り散りになってしまった

まず、俺は一組、ミツ、ショウ、ミカは三組という感じだ
だけど、一人になったからって嘆いてはいられない、何せ今年のクラス替えは俺たち以外の生徒も被害を受けているのだ
(単に仲の良い人同士が別れてしまっただけだが…)

しかし、この問題は休み時間になればすぐに解決する、散り散りになっても昼飯を食べる時はどちらにせよ同じ場所に集まるのだから
だけど、中にはこれを機会に前の友達との縁をスッパリ切って新しい友達を作る人もいる、しかしそれをやるとまた来年も同じ事を繰り返さ
なくてはならなくなりかなり面倒臭い、勿論俺はどちらで出来た友人も大切にする方だ



12時35分―昼休み いつもの本校舎の屋上
天気は朝に続き見事な晴天

「〜〜〜〜〜〜ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」

俺はついに堪え切れずに叫んだ、近くにいるメンバー達は皆耳を塞いでいる
しかし、何故俺がこんなにも大声を上げているのかと言うとそれは1週間前に遡る

俺のクラスは一組、担任はこの春東京から来たばかりの先生が受け持っている
名前は篠村真人(シノムラマコト)、身長が高く顔も良い方なので女子の受けが良い、オマケに他のどの先生よりも頭が良く運動も出来、
更には22歳と言う若さで誰にでも優しいそう、こんなにも完璧な奴がいるのかって言うくらいパーフェクトな先生なのだ

しかし、彼は普通の生徒…頭の良い生徒だけに優しくする、所謂えこ贔屓をする人なのだ
そして普通以下(ここでは凡人と言おう)にはこれでも無いくらいに冷たくあしらう、勿論成績が平均以下の俺に対してもそれは同じであった
先程も彼、篠村先生の授業で注意(被害)を受けたばかりだった

「俺はぁぁぁぁぁーーーーーー何ンにもぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーー悪い事してねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
ぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

更に大絶叫、喉痛がろうが近所迷惑だろうがそんな事を気にしてはいられなかった
寧ろ叫ばなくては死んでしまう

「……で、今日は如何した?」ミツがまたかという様な顔で俺を見る
俺は今にも泣きそうな表情で彼をじぃ〜っと見つめた

「きひへくへふ?」
「いや何を言ってるか分からんぞ…」
「あのねぇ〜あのさぁ〜〜〜………はぁ…篠村だよ、俺がさー隣のチヨ坊(クラスメイト)が教科書忘れたから席くっ付けて見せてあげてた
んだよね〜〜…したらさぁー「何をしてるんですか?!その行為はカンニングと同じですよ!!」って激怒してさー廊下に立たされたんだよーー
ーーー今時廊下に立たせるんだよ!!廊下だよ?!つーか俺だけだぜ?…なぁんでチヨ坊は立たせねぇんだよ!!何で俺だけかーーーーーっ!!!」

俺は先程、四時間目にあった事を全て話した、四時間目の授業は国語だった

「しかもさーしかもさー篠村の奴、俺がこんな見た目だからって「君に国語の授業を受ける権利はない」って言うんだぜ?なぁミツ、ショー、
ミカどー思うぅー?」
「…えっと今のを整理すると、国語の授業の時に篠村先生に怒られたって事…だよね?〜う〜ん…あの先生っていつも正しい事言うって
イメージあるからねぇ〜、まぁ確かに権利は無いはちょっと酷いね」
「ショ〜〜〜〜wwだよなだよね?お前は俺の味方1号な!」
「……あははは…どうも」
「儂もあの先公は嫌いだな、例え見た目が良かろうと中身がブスでは本末転倒だ」
「ミッチーwwwwwアンタはアタイの救世主(メシア)やぁ〜〜〜〜vvv」
「ハーイハーイ私もシノ先嫌い派でーす!だって〜何かキモいしー、明らさまに私は良い人ですみたいなオーラ出してる奴って絶対嘘吐き
が多いもの…それに私の親友傷つける奴は嫌い!大っ嫌い!!」
「ミカ〜〜〜〜〜〜wwwww結婚してチョ」
「(吐)…、まぁ…言われんのはアンタだけじゃないみたいだし…現にウチのクラスの娘も被害受けてるし…確かシノ先が来て二日だっけ?
桜さんが授業で分からない所があったからシノ先に聞きに行ったら「僕の授業が分からない生徒の質問には答えられません」って」
「な”っ酷ぇ!!…あーでもそれなら俺ン所の方が悲惨だな、学級委員長が質問したら「君は学級委員の癖にこんな問題も分からないのか?」
って…つーか学級委員長だからって何でも分かる訳じゃねぇと思わん?」
「うんうん思う」

その日の昼休みは篠村に対する愚痴大会で終わった




+++

同日、放課後―職員用玄関前(外)

俺とショウとミカはミツを待つ為に職員用玄関の前に立っていた
彼は生徒会の役員なので時々こうして忙しい時がある、役職は書記だったが生徒会長の仕事も良く手伝っているという
そう言うとウチの学校の生徒会長が怠け者の様に聞こえるが生徒会長は生徒会長で忙しい、らしい(まぁ三年生だからなぁ〜)

「―それにしても今日は遅いね…もう十分も待ってるのに…」
「そうよねぇ〜いつもなら遅れても五分くらいなものだし、連絡くれればいいのに…」
「しょうがないよ?ミツキ携帯持って無いんだから…まぁ持ってたとしても学校に持ち込めないから一緒だけどね」

我が中学「如月中学校」は特別(家庭の事情がある生徒)な生徒以外携帯電話を持って来る事が禁止になっている
勿論これは如月中に限った事ではないが

「…何か嫌な予感がする」

モミジが意味深にそう言った、僕は彼女にどうしたの、と問うた

「篠村が来る、一、二、三…」

「君達、こんな所で何をしているんですか?」キィ、と職員玄関のガラス戸を開けて優男が出てきた
出て来た早々篠村は腕を組み俺達を見下ろす、そして一言「放課後になっても直ぐに帰らない生徒は不良ですね」と
流石篠村、いきなり悪態を吐いてきた

「…友達を待っているだけです、それと私達は不良じゃありません」

ミカが強かにハッキリと言い切った、しかし彼女は少し怯えた面持ちで篠村を見ていた
あの高慢な彼女でさえも怖がらせるとは恐るべしと言った所である…おっと感心している場合ではないな

「待たなくて良い、帰りなさい」
「異議ありっ!生徒を一人で帰らせる方がよっぽど危険ではありませんか?今の御時世、誘拐だの変質者だのがうろついていてとても危険です
よ?それでも篠村先生はわたくし達に彼を置いて先に帰れとおっしゃるのですか?」

俺は初めて篠村に反論した、敬語はあまり得意ではなかったがこの場合仕方が無かった
しかし当の篠村は怯むどころか益々嫌な顔をして「校長先生に訴えますよ?」と言った

「…(っクソ!!そっちには最強の切り札があったか!)申し訳ありませんでした、我々は直ちに此処を立ち去りますので何卒お目を瞑って
下さい」
「分かれば良いのです」

篠村が歩き出した、その方向は本校舎の右脇にある職員専用の駐車場だ
俺達は彼が遠くに行くまで一言も喋らずに見ていた

「アイツの車は赤の普通車、ナンバーも覚えた」
「良く見えたわね〜」
「まぁな、これで呪える、とりあえず式神か何かでいっか、よしっ待つぞ!」
「えぇぇ??」


ショウが驚いた様な顔をする、恐らく今のはどちららにも向けたツッコミだろう

「すまぬな〜少し手間取ってしまった」数分遅れてミツがやって来た
彼は鞄の他に手に何かを持っていた、黒い四角い包だ

「おかえり旦那〜…所でその手に持ってる物は何?」
「教科書でしょ?でも今時風呂敷なんて古風だね〜」
「あーコレか…違う違う、これは生徒名簿だ、今度の歓迎遠足用のちょっとした企画をする為に持って帰るのだ」

ミツキは生徒会役員である、今の時期は生徒会長のみならず他の役員達も三年生で忙しいらしい
この如月中学は県内でも有数の進学校であり三年生は一学期のこの時期から高校受験に向けて勤勉に励んでいるのである
しかしその所為で下級生達が迷惑を受ける事も必須だったりする…

彼の場合は尚酷い、生徒会役員で二年生だからって殆どの仕事を押し付けられている、しかもその役員の殆どが三年生だったりする
しかしミツキは大量に仕事を押し付けられても文句一つ言わず黙って頼まれた仕事を引き受けているのである

「君も本当人が良いよね?そんなの他の人にでも任せれば良いのに…」

僕は少し尖った態度で彼にそう言った、ミツキは根が優しくて素直な奴だから周りから叱られないと分からない時がある
しかし彼は「平気だ、それに他の皆も忙しいと言ってたしな」と言って苦笑いを浮かべただけだけだった

「ねぇねぇもう帰ろうよ〜?シノ先はいなくなったけど他の先生に見つかったらまた何か言われちゃう…」
「だなだなーミツも来た事だし早く帰ろーぜ♪」

叶さんとモミジが沈黙を破る様に僕等の手を引いて歩きだす
もしかして今の僕の気持が以心伝心したのだろうか…僕は何だか悪いような気持ちになった



「〜〜〜…だぁもぉ最悪だったよなーねぇ?」

モミジは先程の事をミツキに話していた、多少脚色はしているものの彼女が篠村先生を凄く嫌っているという事はよく伝わる
彼女はジェスチャーを使い身振り手振りで話している、それにしても彼女の篠村先生のモノ真似は良く似ていた

「確かに…この高慢ちきの叶をそこ…っ
「高慢で悪かったわねっ!!」

パコン、ミツキの後ろにいた叶さんが彼の後頭部をチョップした
ミツキはクルリと首だけ後方に向けると更に「悪いわ」と口をアヒルの様にして言った

「しかもアイツ…校長の名ぁ出しやがるんだぜ?卑怯だと思わねぇか?」
「同感…だな、しかしあのセンコーだって生徒から訴えられたたら即教育委員会に叱咤されるんじゃないか?普通に考えて…」
「そうよね!…じゃぁ私達で訴えない?私の力を持ってすればあんなペテン教師なんて監獄送りに出来るわよ」
「おっミカが金持ち(権力者)らしい事いったー、つーかそれ賛〜成w」

彼女達が盛り上がる、二人は息は息が合うといつも二人で盛り上がる

「まぁでも実際それが出来るかって言ったら疑問だけど…ね………?」

先程まで夕日が沈み薄暗かった辺りが商店街の街の明かりで急に明るくなった
二人は気付いていないようだが僕ははっきりとミツキのソレを見つけた

「…ミツキそれどうしたの…?首の後ろ青くなってるけど?」

頚椎のすぐ左横だろうか、5p程の青痣が出来ていた

「えっミツ怪我してたん?大丈夫かよ〜あ、もしかしてミカか?」
「んなっそこは突いてないわよ!…にしても結構大きいわね?何処かで打ったの?」
「あぁこれなら心配ない、さっき名簿を取ってる時に上の棚からファイルが落ちてきてぶつかってな〜」
「マジかよ〜…ぬ?ファイルが当たっただけでそんな痣が出来るかね?」
「勢い良く落ちて来たからな〜あたたぁ〜まだ痛むな〜まぁ帰って湿布張れば治るだろうこのくらい」

「本当は違うんじゃないのミツキ?」そう言って僕は彼の右腕を掴んで立ち止まった
僕はミツキが何かを隠しているように見えて仕方が無かった

「…ショウ、何が違うのだ…?」
「その痣、指の形みたいに見えるんだけど、…まさか
「儂が誰かにヤラレたとでも言うのか?」
「そうだよ、違う?…篠村先生…」

僕は咄嗟に思い浮かんだ名前を言った、根拠はないが彼の生徒に対する態度はそう疑われても致し方がない
しかし、ミツキは「そんな訳はないだろう」と言って僕の手を振り解き歩き出した
僕も彼の後ろについて歩きだす

「嘘だっ…じゃぁなんで肩がふるえてんの?…本当は
「黙れ!本人が違うと言っておるのだ…それにそんな証拠もない事を言うな…」
「……君って本当馬鹿だよね…?全く、僕がそんなミツキ見てはいそうですかって言う訳ないでしょ?」
「馬鹿で悪かったな…、モミジ帰るぞ」

ミツキは僕の話を聞いていないのかモミジの手を強引に引っ張って早足になる

「っ痛ちょっ…ミツっ!!今の本当な…っ
「煩いっ!!御主も儂の言う事が信じれぬのかっ!」

ミツキが激怒する、手を繋がれているモミジはその彼の台詞に怯えていた、当たり前だ今のはミツキの八当たりだ
ミツキは更に早足で歩く、そのスピードは歩きと言うより小走りに近かった
それでも僕は彼の後ろに付いて歩いた、このまま帰らせてはいけない様な気がしたのだ

「良いんじゃない?本人が違うって言ってるんだし、それに本当に生徒の誰かにやられたんなら火群くんだってやり返してるでしょうに?」

鈴の声が殺伐の空気を破った、叶さんは腕組みをして僕等を睨らみ「ね?そうでしょ火群くん?」と更に睨みを利かす
流石と言うか何と言うかその言葉のお陰なのかミツキは歩を止めた

「…確かに生徒にやられたんならやり返すよな?…目には目をって…」
「だから儂は誰にも殴られてはおらんと言っておるであろう?!」

「っ殴られたのっ?!誰にっ?」僕は今の台詞の違和感を感じ間髪入れず質問をした
ミツキはばつが悪そうな顔をしてその場から逃げようと歩を進めた、しかしそれも虚しく隣にいるモミジに袖を抓まれ遮られる

「…っ……、儂とした事が焼が回ったな、ショウ御主の言う通りヤラれた…だけどそれはもう片が付いている、心配には及ばぬよ」
「じゃぁどうして震えてたんだ?片がついてるんなら…?」

僕は更に彼に質問を続ける、寧ろもっと聞かない事には彼は黙って帰ってしまうだろう

「そ…それは思い出して腹が立っただけだ!もう終わった事、これ以上詮索するのは止めてくれ…」
「嘘だ、君は嘘をつく時目線を反らすよね?…今だって嘘をついてるから目が逃げてた」
「いちいち見るなっ!!!!鬱陶しい!!」

また目が泳いでいる、近くにいる彼女達にもミツキが嘘を言っている事がバレているだろうに
彼はクルリと踵を返し帰ろうとする、しかしまたしてもモミジに遮られた様だ

「〜〜〜…貴様らっ!!いい加減にしやがれ!儂が誰に何をされようと関係ないだろーがっ!!」憤怒の表情、彼は顔中を真っ赤にして今にも
襲いかからんとばかりに荒れていた、正にブチ切れと言った表情だ

「大いに関係あるよ?だって君と僕は友達でしょ、その友達がヤラれたんだ…無理にでも聞きだすよ?」
「……〜〜〜はぁ…本当御主はしつっこい男だなーセロハンテープか?」

粘着質な人だと言う意味だろうか、僕はミツキの分かり難い例えに「どちらかと言えばガムテープだよ?」とちゃらけて答えた
さっきまで殺伐としていた場の空気が和らぐ、隅で仲良く固まっていた彼女達も安堵の表情を浮かべる
僕とミツキは二人に「ゴメン」と謝った、彼女達、モミジの方は両手を横に出しヤレヤレという顔をしてきた、僕等はもう一度彼女達に
謝った




「―…で、本当は何があったの?言っておくけどもう嘘は通じないからね?」

場所を移して此処は愛染神主の家、つまりミツキとモミジの居候先である
僕と叶さんはわざわざミツキの話を聞く為にお邪魔している、そして夕食まで御馳走になっていた
メニューはカレーだった
僕は愛染おじいさんに何度も良いんですか、と言っていた、しかしその度におじいいさんは気にするなと言ってくれた

「〜あづっ!…ほらーミっちゃん言えよ?俺達仲間じゃんよー」
「そうよ、男がいちいち秘め事すんなってのキモいから」

モミジと叶さんもミツキに促す様に尋ねる、多分これは彼女達なりの気遣いなのだろうと僕はそう受け取った

「…ショウの言ってた通り篠村に殴られた、…仕事が、動作がトロイと言われ…て掴まれた…」

彼の話によると、いつもの様に生徒会室で先輩の代わりに仕事をしていたら篠村先生が様子を見に訪れたそうで
その時に文句を言われて胸倉を掴まれ数回殴られたという

「…じゃぁどうして出てくる前に職員室に行かなかったの?…そりゃ篠村先生の被害を受けてる生徒は沢山いて誰も報告してないけど…
言おうと思えば……?」
「口止めだ、儂が他人にその行為を言う事があったら…御主等を殴ると…そう言った………」

ミツキは肩を震わせていた、よほど怖かったのだろうか
僕はその時ミツキは妖だけれど中身は僕等と同じ中学二年生なのだと改めて感じた、本当に怖かったんだろう…
当り前なのだが誰でも友達の名を出されると弱くなるものである

「そうだったんだね…アリガトウ、よく話してくれたね…、さっきは強く言いすぎてゴメンよ…」
「口止めって…シノ先も非道な事するわね〜」

「…その行為?、口止め??……本当に殴られただけか…?」

突然疾風が吹いた、モミジは訝しい顔でミツキに迫った
その隣で叶さんが彼女の発言を叱っていた、が次のモミジの言葉で場が凍りついた

「行為って…殴られたって意味じゃないだろ?…ミツ、お前篠村にヤバい事されたんじゃねぇか?」

やっと和んだ空気がまた殺伐とした空気に逆戻った、僕は「まさか、そんな事はナイでしょ?」と言ったが、その質問を受けたミツキは
硬直してしまっていた…どうやら図星の様だ

「…確かに殴られただけなら「殴った」って言うものね…、で、ヤバいって…?」
「固まる程の恐怖…ミツ声は出さなくて良いから首だけ振って俺の質問に答えてくれ、…その行為は決して人には言えるものでは無い?」

ミツキは相変わらず硬直したままだったが首が縦に振った答えは「イエス」だ
モミジは彼の答えを確認すると更に質問を続けた

「それは恥ずかしい事だ?」

次の質問は突拍子もない、僕は思わずズルリとこけそうになった
て言うか恥ずかしい事って…

しかしミツキの答えはまたもや「イエス」だった、思わず僕は「えぇっ?!」とツッコんだ

「それは…痛みを伴う?」モミジは僕のツッコミを完全にスルーして次の質問を彼に投げ掛けた
彼女の彼に対する質問には苦笑いしてしまう、しかし彼女はそんな質問にも拘らず真面目な面持ちで続けた

「…またイエス…なぁミカ今俺がコイツに質問したのって何を意味してたか分かる?」
「えぇ…あんまり人には言えないけど私達が良く知ってる事よね?…でしょう?」

一人僕は何の事だか分からず首を傾げた、その時僕の横でその様子を見ていたおじいさんが口を開いた

「…人に言えんで、恥ずかしくて痛い事って言ったらほ……
「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

硬直していたミツキが大声を上げておじいさんの言葉を遮る、僕は思わずミツキの口を手で塞ぎおじいさんに教えてくれと言った

「尻を掘られたとか?か」
「っ!!!!!//////////////////がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

絶叫、ミツキは顔を真っ赤にして吠えた

「…あーやっぱりね、だーからさっきミツが来た時チャック開いてたんだな〜」
「あ、私それ気付いてたけど言い辛いから黙ってたわよ?」
「なっ…………///御主等ぁ〜〜〜〜〜…」

「ね…何か脱線してるけど…、それって物凄くヤバくない…?」
「そうだな、ミツがヴァージンじゃなくなっちまったもんな、あンの野郎…俺達のヒロインを汚しやがってぇ!!許せんっ!天誅を下すぞ!」
「生徒会室にカメラセットしておけば良かったわ残念!」

「御主らぁ〜〜〜〜〜って誰がヒロインだ!ふざけるな、儂は男だ!」
「で、篠村ってデカいのか?」
「まぁそれな…じゃなくてっ!儂は被害者だぞ?少しは手を差し伸べるとかは無いのか?」

何だぁ〜このイジメ、僕は呆れた顔で彼女達を見た

「まぁ…確かに掘られちゃぁ友達には言えないよね?…で、君はこれからどうするの?このまま黙って泣き寝入りする?それとも…」
「い…言えるかよ///これは名誉毀損だ!…けど言えんし…う”ぅ〜…これじゃ皆に嫌われてしまう…」
「ミツキ…嫌わないよ?僕等友達じゃん?、それに僕君を助けられなくて悔しいよ…」
「ショウ…儂は…儂は……?!

トン、僕の左横にいた筈のミツキが僕に突然寄り掛かって来た
僕はミツキが凄く弱っているんだなぁと実感した、と思いきや実は彼は寄り掛かってきた訳では無く横からミツキを押し倒していただけだった
モミジが

「…御主何の真似だ?」
「甘えとけや〜い♪何ならヤリ直してみたら?(笑)」
「冗談ぢゃないっ///、もう野郎となどしたくないわっ!!…思い出しただけで気分が悪い…」
「お〜ぃつわりだって〜」
「な訳あるかーーー!!…う…本当に気分が悪くなってっきた…」
「大丈夫?…今日はもう休みなよ?」

ミツはゆっくりと腰を上げ立ち上がる、しかし掘られた所為かガクガクと膝が笑っていた
僕はそんな彼が可哀相で堪らず手を差し伸べた、だがミツキは僕の手は握らず襖に寄り掛かりながらヨロヨロと廊下に出た

「……大丈夫かなぁ〜、顔色も悪いし…〜まぁでも今のはモミジの所為だよな〜?」

ショウが俺の顔を睨んできた、彼は俺に文句を言いたげな剣呑の表情をしていた

「ワザとだよ?…このまま蓋閉じちゃったら後でトラウマになって出てくるだろうからさ…、あと悪いんだけどミツの世話してくんねぇ?」

とんでも発言、しかも僕にミツキの世話をしてくれと
僕は「どう言うつもり?」と彼女に尋ねる、しかしモミジは声を出さずに目だけで僕に「俺には無理だから」と訴えて来た、様に見えた
その目は何処か寂しげで儚く思えた、まぁ確かに今のミツキは女子に慰められるのは避けたい筈だろうしね…

「だからって…じゃぁ泊まっても良いの?」
「ジィちゃ〜ん緊急事態だし良いよね…?」

僕の右隣に居たおじいさんはスプーンを持ったままの手で親指を突き上げ「GOOD」のサインを作って見せた
僕は「有り難う御座います」と丁寧に答える、だけれど僕が居ても彼の役に立つのかどうかは不明である
何しろこんな事態は初めてだからだ、しかも普段は僕より活発で明るく人気のあるミツキがそんな被害を受けるなんて僕は考えた事も無かった
寧ろ思い付きもしない事である、恐らく此処にいる三人も僕と同じ様に思っていることだろう…

「じゃぁ…彰くん、お母さんに電話しておきなさい、電話は廊下を出て正面にあるからの」
「はい、ではお借りします…おじいさん、本当にスイマセン…あのご迷惑じゃないんですか?」
「な〜に子供がもう一人増えようが大して変わらん…それに謝るのはワシの方じゃよ、ミツキの事スマンかったの…」
「…いえ…」

僕は廊下に出て正面の黒電話で自宅に電話をした、もう10回くらい呼び鈴が鳴っているが一向に出るっ気配が無い
しかしそれはいつもの事なので大した事では無い、僕の母は職業上自宅で仕事をする事が多いが家に居ても殆ど二階にいるのでいつも電話に
出るのが遅い、僕の家の電話は一階の玄関側に置いてあり二階の階段から少し離れた距離にある

「…(今日は特に遅いなぁ〜…)またあ…

《あっは〜い木村でーす!今原稿終わる所なんでもう少し待って…
「僕だよ母さん…まだ仕事してたの?今日は締め切りとか言ってなかったっけ?」
《うっ良く覚えてるわねぇ〜流石我が息子…所でアンタ今何処に居んの?もう…げっ八時過ぎてんじゃないっ!!》
「ゴメン母さん、ちょっと友達が色々あって…それで今日はその子の家に泊まろうと思うんだけど…良いかな?」

僕は電話の向こうの見えない母に恐る恐る訪ねた、電話の向こうの母は少し黙って「イイんでないの〜?泊まれば?」と快く承諾してくれた
僕はホッと胸を撫で下ろし「ありがとうと」言った

《あっでもアンタ着替えはどーすんの?借りちゃう?なら良いけど》
「…あー…そうするよ、じゃぁオヤスミ母さん」
《グンナーイ・サ〜ン♪…《先生っ原稿早く終わらせてくださいよっ!》》

母の会話の後に別の声が聞こえて来た、多分編集の人だろう、母はいつも締め切りギリギリに原稿を書き上げる人なので母の担当になった
人はいつも苦労している、僕の母は売れっ子の小説家だ

「…ホント忙しい人だなぁ〜息子が帰ってないのにすら気付いてないなんて…まぁ母さんらしいけどね」

何時もこんな感じだ、大体月の終わりに編集者の人が「せんせ〜い原稿まだですかー!」と切羽詰まった顔でやって来ては
「あと五分」と言って何時間、長い時では丸一日待たせる事があるのだ、勿論売れっ子なのでいくつもの雑誌で連載をしている所為でもあるが
母こと、二之宮妃琉琥(ニノミヤヒルコ)が基本のんびり屋のマイペースな性格なのが一番の遅れる原因なのは間違いない

「……とは言ったものの…」
「ショーちゃんミっちゃん風呂行くみたいだから加勢してやって」
「わぁっ…モミジ?!…加勢?何でさ」
「まともに立ってられてねかったじゃん?それにー俺一応メスだしーまー別に俺が手伝っても…
「分かったよ…〜世話ってそう言う意味だったのね?全く君も人が悪いよ」

ショウは苦笑いしながらも俺の言う事を聞いてくれる様で風呂場に向かって行った

「…良かったんだけど、これ以上傷付かせんのはヤーだしな…(まぁでもショーちゃんにその気が無いとは限んないけどね〜(笑))」

俺はニヤニヤとした表情で風呂場の方を見つめていた
勿論これは腐女子としての性である(誇)

「モミジィ〜何突っ立ってんのよ?」
「…ミカちゃぁんv…おっ今から帰り?」
「そうだけど?、もうすぐしたらゴンザレスが迎えに来るって言ってたわ」
「そーか…なぁなぁちょっと頼みがあんだけど…―

俺はミカの耳元で小さくあるお願いをした、そのお願いは金持ちの彼女にしか頼めない事だ
ミカは俺の話を聞くと即座に「分かったわ」と小さな声で承諾してくれた、流石は我が親友、恩に着るぜ〜♪

「…でもそんな事したら彼、余計に傷付かないかしら…?」
「無問題〜♪アフターケアはまかせんしゃい!…ほなさいなら★じゃまた明日ね♪」

俺はミカを門の外まで連れて行った、彼女は終始何だか腑に落ちないという様な顔だったが俺はそれを気にせず笑顔で見送った

★★★

+++

風呂場にて―

僕は人生で今までに無い様な体験をしてしまった、しかもそれを一番見られたくない人に見られてしまうなんて…おまけに
証拠写真(未遂)まで押さえられる羽目になろうとは……

僕はモミジに言われてミツキが居る風呂場に向かった、勿論本心では気が進まなかったが大事な友達が困っているのには手を差し出さざる
得なかった、僕は一応引き戸の向こうのミツキに了承を取った、彼はモミジが言っていた通り腰が立っていなかった
それまでは気を使ってその辺は見ない様にしていたのだが実際その光景を目の当たりにするとそうも言っていられない感じだった

「…あー…これはモミジに頼まれて仕方なくなんだから…変な勘違いはしないでね…」
「分かっておる、と言うか何度も聞いてるから……それよりも良かったのか?無理に泊まらせたみたいで…?しかもこんな事まで…」
「気にしないでよ、僕等友達じゃない?君が困っていたら手を差し伸べるのは当たり前でしょ?…それよりもミツキ、本当に掘られたんだね…お尻」

僕はミツキの背中を洗ってあげながらさっきの事を掘り返した
ミツキは猫の様に背中を丸め溜息を吐いた、彼の背中が「もうその話はするな」と言っていた、が、僕は続けて同じ様な質問をした

「…本当にしつこいのぉー……///事実だ、死ぬほど最悪だがな…しかしまさかあの篠村がホモだったとは…」
「餌食になっちゃったしねー」
「餌食言うなぁぁぁぁ!!…彼奴は儂を殴ったかと思ったら足で蹴飛ばして、また殴られると思ったら…その……いきなりチャック開け
やがるし…///儂…その……その時は正直…怖かった…」

ミツキは更にしょぼんとして震えだした、僕は泡の付いた右手を洗面器に入れていた湯で泡を落とし彼の頭を優しく撫でた
傍から見れば僕らこそ危ない事をしている様に見えるだろうが今この場所には僕等以外誰もいない
僕はその右手を伸ばしてミツキの肩ごと包み込んだ、今僕が出来るのはこのくらいしかないのだ

「大丈夫…もう君を危険な目になんかあわせないよ」
「ショウ……///…って御主っやっ…離れっ…」

ミツキが慌てだす、僕は「どうしたのさ?落ち着いて」と彼の肩を掴んだ、しかし彼は更に暴れて僕の手を振りほどく
その時、泡で滑ってミツキが転んだ、しかもその格好が一瞬目表のポーズの様に見えて心臓像がドキリとしてしまった…
だがしかし相手は僕の親友でしかも同性である、僕はバクバクと激しく動く心臓を落ち着かせながら「大丈夫?」と彼に手を差し伸べた

「あぁ平気だ…と言うか御主顔が赤いぞ?上せたのか…」
「いやいや何でもないよ///(君が一瞬とはいえ可愛く見えたなんて死んでも言えないよ)…あ、怪我してない?」
「だいじょっ…痛っ…!!あぁっ…」
「やっぱり大丈夫じゃないじゃん…?(一々声がイヤらしいなぁ…///)」

「ミツキ…僕の事誘ってないかい?」
「さっ何を言っておる…っってショウ股間が……///」

ミツキが僕の股間を指差してカタカタと震えだした、僕はハッとして下を見やる…「ゴメン、無意識だから」とにこやかに返したが
当の彼は「この獣」と言わんばかりの顔で僕を思い切り睨みつけてきた、正直心が痛い

「…はぁミツキ、君の所為だよ?」

「儂は何もしておらん!」
「だって…ミツキ女の子みたいな顔になってるし、あんな可愛い声出されたら僕だって篠村先生だってコロっと騙されちゃうよ?」
「なっ///…可愛くないし騙してもおらん!」

強気に言う彼だがその表情は男の顔では無く傷ついた女の子の顔の様だった、僕は小さく息を漏らし湯船につかった

「説得力ないよ?だからヤラれたんじゃない?」
「…っ///!!!なっ…うるさぃ…///」
「もう少し甘えなよ?僕達親友でしょ?」
「うっ…しかし、こればかりは…///」

「ミツキ……何なら僕としちゃう?僕なら君を怖がらせたりはしないから…///」僕は自分がとんでもない事を言っている事に気が付いていながらも
そんな自分の発言を止められなかった

「…本気なのか御主///」ショウの言った事が冗談だとは分かっていたが、その言葉に甘えてくなってしまった…多分もう止められない

ミツキは耳まで赤くした顔で僕を見る、その彼に誘われる様に僕は彼の色んな所を舐めし探る様に触る

もう親友とか男とか如何でも良くなってしまって頭がぼーっとする
僕は彼にしたいように欲望をぶつけて喘いだ

ミツキも僕に触られているにも拘らず優しい顔付になっていた、これは僕の勝手な思い込みだが彼は僕の事が好きになっているに違いない

だって…僕もミツキが 好きだから



あぁ…時間が経つのを忘れそうだ―


***

ガラリィ…、引き戸の開く音がした、僕は反射的にその方向を見やる

そこには青いバスタオルを胸元から巻いた褐色色の肌の少女が立っている、モミジだ…
僕とミツキは慌てて今までの体勢を崩しバッと離れた、しかしそれも虚しくカシャンカシャンと嫌な音を響かせ写真を撮られてしまった

『…………………………っっっっっっ//////////////////////////////////////!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

更にカシャン、彼女はケラケラと笑いながらゆっくり顔を上げる、その表情は今まで見たこと無い程のニヤケっぷりだった
僕はすぐさま弁解の言葉を吐いたがそれも全く効果が無かった、無理もない誰だってこんな場面を目撃してしまったら信じる所か疑う一方だ

「いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜何ナニ〜〜〜リアルBL(ボーイズラブ)はっけ〜〜〜ん???こりゃ〜〜〜大っスクープじゃん???見出しは
『木村彰、火群魅月と熱愛発覚?!ついに禁断の愛に目覚める?!』に決まりだなっ♪」

僕は堪らず湯船から立ち上がる、もう形振りなんか気にしていられない、僕はモミジの持っているカメラに手を伸ばした
しかし彼女はするりと僕の腕を避け後ろの脱所に避難する

「…なんてなー?、こんなオイシイニュース誰が他人にバラすかよ?…おいメェ等運が良かったな?今ジィちゃんちょっと出てる、ミカも
さっき帰った、…だぁ〜〜れにも聞こえてないぜぇ〜〜〜??ホモヤロー(笑)」
「…っ///これはアクシデントだ!!今すぐ撮った写真を消せっ!!!」
「はっ嫌なこった…これはネタにする、…そう…オメェ等を強請(ユス)るな…勿論金をくれても無駄だぜ?」

「おいモミジ…」
「これはコレは受男クン☆なぁ〜に鼬に掘らせてんのさ?(笑)やっぱそっちの気アリなんで?旦那〜?にゃ〜」

少し遅れてミツキも上がって来た、しかしその足付きはかなりフラフラしていた

「…嘘だとは言わん…しかし言っておくが儂は…
「はいはいよー阿呆野郎聞いちゃねーよ!……っと茶番はこの辺にしとかねーと、な?…オメェ等この事バラされたくなかったら
俺の作戦に全面協力しろ!さもなくば、お前らの総ての秘密をネットに流す!!…と言う訳だ、良いか?これはお願いじゃなない、脅迫だ!」

いきなりの態度の変わり様、僕も後ろのミツキもその言葉の後には何も言えなかった
しかも彼女は僕等を指差して堂々と脅迫とのたまったのだ、この状況とは言え普通友達にそんな事はしない筈だ…多分

「返事はしなくて良い、強制的に遣ってもらうからな?…それとカメラは持ってるけど…SDカード入ってないから写真なんか一枚も
無いぞ?ま〜ハッタリさね、にしてもよ〜……ショッキング↓↓↓………エーンガッチョっ!!!ベェーっだ!」

モミジは舌を出して風呂場の引き戸を閉めた、ガチャンッ、凄い勢いで閉めた為かその反動で数センチ開いている
気丈に振舞っていたのは演技だったらしく扉の向こうからは小さな声だったが僕等の悪口が聞こえてきた

「……最悪だ…ショウ御主の所為だ!」
「…それを言うなら僕の冗談に乗ってきた君の所為だろ?僕はその気も無かったのに!」
「なっ…儂だってアブノーマルは嫌いだっ!!さっきのは単なる気の迷いだ!!!!!!…だから全て忘れよう」
「言われなくても今すぐ記憶から抹消するよ」



「チィ〜っス元ノンケ野郎共♪な〜にそんな所で突っ立ってんだよ?」ガラリ…再び引き戸が開いてまたモミジが入ってきた
しかし今度は先程とは違う格好だった…

巻いていたバスタオルは無く素そのもの
彼女はそんなあられもない格好をしているのにも拘らず顔色一つ変えずに僕等の前にやってきた、何と言うか勇者と言うか兵だ
僕は思わずその女体に見惚れてしまった、何せ彼女は中二にしては意外とと言うか意外な程胸も大きく手足もスラリとしていてまるで
雑誌のグラビアの様な躯だったのだ
しかし何故彼女がそんな格好で僕等の前に来たのだろう

「っ///モモモっモミジィーーーーー!!!!御主何て格好をっ//////////…」
「…そ…そうだよ///(うっわぁ〜ちょっとヤバくない…//////////)」
「あン?!うせーよホォ〜モそれならさっきツッコめよ?な〜に女子のハダカはお初ですか?(笑)それとも興味ねぇ?」

彼女は僕等がいる事も気にせずズカズカと風呂場に入ってきた、しかも普通に頭を洗いだした
ここの風呂場は広く僕等が彼女の後ろで立っていてもあまり邪魔にならない

「なぁ〜用が無いなら上がれば?それとも冷えたから浸かる?」
「…何なんだコイツ?///」
「……///良く分からないな〜ホント…上が…ハクショッ!」
「我慢しなさんな〜ほらーお姉さんの所に来やがれ」

最初の口調は優しいのだが言っている事は脅しである、僕とミツキはその脅しに妙に逆らえず渋々湯船に浸かる
会話はしない、でもまぁ目を横にやればモデルばりの美少女がいるから退屈はしないけれど…

「ミツー、傷口は広げても治らないよ?」
「…単なる気の迷いだ、頼むから忘れてくれ…つーか寧ろその記憶ブラックホールに捨ててくれ」
「塩塗った所で痛いだけ、考えナシの行動は身を滅ぼすだけだ…まー早死にしたけりゃ知らんがね」
「……すまぬ…馬鹿ですまぬ…」
「謝るんならショウに謝れよ?」
「…良いよ、どうせ同罪だし、共犯者だよ?」
「(野郎ってモンはホントあっさりだなー)…オメェ等明日俺が良いって言うまで家出んなよ?ちょっとやる事があるから」
「やる事?」
「何だ?」
「ん〜…ヒント、ハリー」
「?何だそれは?」
「外国人の名前だよね?」
「acquired immunodeficiency syndrome の事だよ?まぁ分からない方が良いかもね?」
「っ!!!!!…あっ……」

僕はその言葉を聞いてゾッときた、acquired immunodeficiency syndrome 、つまり後天性免疫不全症候群(HIV)の事である
例え僕等が遊びのつもりでも感染しない可能性はゼロとは限らない(※エイズの事。エイズハリーは都市伝説では有名な話です。)

「…何だよ?」
「ある途上国ではこれが原因で沢山の人が死んでる、しかも一度かかれば決して治る事のない不治の病、近年では日本でもこれが流行している、さぁ何だ?」
「……あのー僕もう上がるよ…お先!」

ショウが逃げる様に湯船から這い出た、その後を追う様にミツも立ち上がる

「ミっちゃんは待って、話がある」俺はそう言って風呂場から出ようとしたミツを引き留めた、彼は「後でで良いであろう?」と言って
戸を引いた

「今じゃないと駄目なの…」俺はそう言ってミツの後ろふくらはぎを掴み捕える

「聞いてあげなよミツキ?」脱衣所にいるショウがミツを促がす様に言ってくれた、なので俺はもう一度彼に頼んでみた案外にも
ミツはあっさりと
「良いだろう」と言って扉を閉めた

「…///で、話って…
「アイツが向こう行ったら話すよ……、だって…聞こえたら嫌だもん///…」

俺は半分演技でミツにそう言う、小首を少し傾け潤わせた目で訴える
ミツはそれを知ってか知らずかその演技に騙されていた、顔は相変わらず真赤だったが今度は鼻の下が伸びている、俺は心の中でその顔の
彼を笑ってしまった、「男って本当単純だなぁ〜」さっきまで危ない方向にイっていた奴が今はすっかりノーマルに靡いているのだから…
まぁ…ショウとの行為が本気でなくて良かったと心底思ったのは言うまでも無いけど

「……うむ///分かった、待とう…そ、…その儂も御主に頼みたい事があるしな…」
「頼みたい事?…良いよ何でも聞いてあげる…///(演技中)」

暫くして脱衣所からショウが出て行く音が聞こえた、俺が丁度トリートメントを落とし終えた時だった、俺は湯船につかる前に念の為に
引き戸を開けて誰もいないか確認をした、脱衣所にはショウの姿は無なく扉もきっちり閉まっていた

「おらぬか…?」
「おーいないみたいよん♪……じゃぁ良いかな?」

立ち上がり湯船に浸かる、普段ならまず最初に浸かるのだが今日はいつもと事情が違う
彼は左端に避ける様に入っていた、俺はその彼に擦り寄る様に体を近づける…ミツはそんな俺が来るのを拒むように更にこれでもかっつー程
左端に避ける、しかしそれ以上行けないと分かると小さく息を漏らす

「何故そんなに近寄る///…狭い…」
「…感じちゃって可愛いねぇ〜ww…なんちゃって★、で?頼みって何?」
「……言うから少し離れてくれ///…そんなに近寄られると……////////」
「…はいなv(もうそんな事なんて今更じゃん?)」

俺は彼の言う通り少し離れた、ミツは今まで体育座りの様な体制だったが俺が離れたので胡坐に直し変えていた
既に下半身は二次成長を迎えていた…俺は気丈に奮っていたがそんなモノを見せられては平静が保てない……

「…そう言えば御主の話って?」
「あ…ーないよ」

「ぬ?ないのか?」では何故に此処に来たのか思ったが、モミジの事だ特に理由などないのだろうな
だがしかし、このまま彼女を返すのも惜しい…儂は思い切ってあるお願いをしてみた、案の定モミジは顔を真っ赤にして黙りこくってしまった

「あー…嫌だよな///、すまぬすまぬ…」
「良いよ…ふっ不可抗力だし、半分は俺の所為だもんな…うん///」

俺はその時は後先なんて考えてなかった、でも後々考えるとガキの癖に馬鹿な事やるなよって思うかもしれない
だけど…俺は彼が好きみたいだからそれをしてあげて良かったと思っている

後悔なんてしていないしねwww




口中に苦みが広がる、溢れ出た乳白色の液体が見ているだけで目が舞いそうになる
俺はバクバクと煩く耳元で響く心音を煩いと感じながらも、今俺の目の前にある光景で頭の中が一杯になっていた

こんな状況なのに何故だが色んな事が脳裏に渦巻く

でも、何だかもう限界みたいだ…


俺は目の前が真っ白になった―



***

…?……あれ?ここドコ?」

気が付いたら目の前に天井があった、いつもの見慣れた…?
違うな、顔の形のシミが無い、じゃぁここはどこの部屋?

「気が付いたか?モミジ…」

急に視界に影が出来た、逆光で薄暗いがあの男の顔だった
俺は無言のまま数秒奴の顔を見つめた、彼は心配そうな目で俺を見ている

「…ん……何処…?」
「儂の部屋だ、御主あのまま気を失っていたんだぞ?」

道理で記憶が無いわけだ、つまり彼は風呂場で失神した俺を自分の部屋まで運んできてくれたという訳だ
しかしその状況をあの彼に何て説明したのだろうか…?
あの状況だから目を瞑ってくれたのだろうか…?、俺は重い体を少しずつ動かして横向きにゆっくりと起き上がる

「っと…無理して動くな、そうだ喉が渇いたであろう?今飲み物を持って…
「ミっちゃん!…大丈夫だから、もう動けるし…それよりも今何時?アイツは…?」

起き上がったとは言えあまり体に力が入ってくれず凄くキツイ

「ショウはもう寝た、客間を貸しているから安心しろ…時間はー…12時少し過ぎだな」
「……うっわそんなに?俺何時間気ィ失ってんだよ…///たったあれだけでって情けないなぁ…なぁミツ一応聞くけどお前俺に何もしてないよな…?///」
「…さぁな〜♪」
「喉渇いた下行こー(棒読み)」
「オイオイオイ(苦笑)儂もついて行くぞ〜」



「水で良い?」
「…うんw」



夜の帳がより一層深みを増して南の星がかがやく
夜明けはもうすぐだろうか―