第拾陸話【閑話―返】    ※モテない方は額の青筋注意…(・.・;)※


「この日がこんなに辛いとは……」

儂は学校に着くなり大きな溜息を吐いた、恐らく人生で一番大きく深いため息だっただろう
何故、儂がそんなにもネガティブになっているのかと言うと…今日は先月良い思いをした奴には最も辛い日だからだ
そう、今日は3月12日

本番の14日が日曜日なので金曜日の今日が学校でのホワイトデーとなるのだ
不幸、いや幸運にも儂はこの学校に転入して来て以来毎日の様にクラス、学校中の女生徒から猛烈なアタックを受けている
モテない奴からすれば羨ましい事この上ないであろう…しかし、当の本人、儂にとってはそれが苦痛でならないのである

「やれやれ…モテるって罪だな」
「本当だよね……あ、おはようミツキ」

ポンと背後から肩を叩かれる、聞き慣れた声だったが今日は一段と元気が無い
当然だ、彼、木村彰も儂と同じく女子にモテる、いや彼奴の場合儂よりこの学校に長く居るのでもっと酷い

「おはようショウ、今日は凄い荷物だなーまぁ儂も人の事は言えんが」
「君はまだ良いよ…僕なんて100人だよ?君は確か70人だっけ?」
「100…、それは凄いのぉ…いや70も凄まじいと思うが、それにしてもそれだけのお返し…正直いくらだった?」

儂は最後の所だけ小声でショウに尋ねた、100人と言えばそれなりの金額が掛かってる筈だ
恐らく2、3か月分の小遣いは吹っ飛んだんであろうな…

「…3千円くらい、かな…ミツキは?」
「3千!?意外とリーズナブルだな御主…儂は殆どモミジに手伝って貰ったからそれほど掛かってはおらんが、まぁ298くらいかの」
「2,980…君一つにいくらかけてんのさ?僕なんて30円だよ?」
「安い…儂の方は50くらいだな、あまり安くするとケチと思われるしな」
「君でもそんなの気にするんだ?僕なんて今回ばかりは質より安さだよ」
「でもって何だ?儂だって今度ばかりは困ったさ、妖界にいた頃はお返しなんて花一輪で済んだぞ?大量生産してちまちまと小さな花束を作って…内職してたな」
「花で済むって…安上がりだね、つーか妖界ってそれだけで良いんだ…良いなぁ」
「そう言う訳ではないが、ド田舎の上に近所に山があったから助かっていたしな〜御主は小学の頃は如何していた?」
「手紙、君と同じだよ、前一週間は地獄だったね…その所為で腱鞘炎になりかけるし、ホントホワイトデーなんて無きゃ良いのにさー」
「同感、全く生き物と言うのは如何してこうもイベント好きなんだ…まぁ貰うのは好きだけど」

「それはモテる嫌味ですか?」

突然聞き慣れない声が前方から聞こえてきた、儂とショウはその声のする方へ目を向けた
亜麻色のショートカットにビン底眼鏡、手には参考書を携えたいかにもクソ真面目〜な少年が立っていた
彼は眼鏡を右手中指でクイと持ち上げると「はぁ」と溜息を吐く

「…お前は貰えなかったのか?哀れな奴だな〜」
「貰いましたが」
「どうせ母親からだろう?それは貰った内には入らないぞ〜」
「…三人、母を入れて四人です、貴方の方こそそれだけの数を貰ったみたいですが…果たして本命の方には貰ったのですか?」
「ムカつくなお前〜…フンっ!心配しなくても貰ったさ!!!そう言うお前の方は如何なんだよ?まぁお前モテ無さそうだから貰ってないか〜」
「残念ながら私には好きな人はいませんので」
「かあいそ〜(笑)ま、お前に好きな奴が出来ても告る前にフラれるだろうな〜残念でした〜」
「貴方の方こそ、それだけモテていると言う事は本命の方には中々気付いて貰えないのでは?」
「んだとぉテメー!!好きな奴がいねーのに煩ぇぞっ!!お前の方こそ嫌味じゃねーかよ?つーかお前誰だよ?」
「ミツキ言葉使いが…そうだよねー君こそ嫌味でしょ?たかが4つ貰っただけでさー」

「…全くこれだから猿と話すのは疲れる、それと貴方達、学級委員である私を忘れないで下さい!」

そう吐き捨てて彼は去って行った、それにしても学級委員って…

「あ”あ”あ”ーーー!!!ムカつくーーー!!!!!!!!お前なんか知るかぁーーー!!!」
「彼は学級委員の白河聡(しらかわさとし)くんだよ」

と、隣のショウがポンと手を打った
儂は「誰だそれは?」と尋ねた

「僕等のクラスの学級委員長の白河君だよ?後ろの方に座ってるからあまり目立たないけど…」
「知らんわあんなメガネ野郎」
「…ミツキあの人と口喧嘩しても敵わないよー?白河君、口だけなら女子にも勝るんだから…」
「だろうな、全く口煩い…女々しいヤツが!」

儂は一通り悪口を言い終えると再び廊下を歩きだした、早く教室に行ってクラス分のお返しをあげて荷を軽くしたいのだ
既に手が痺れて右腕が垂れ下がっている


「〜…お、重かったねぇ…」
「全くだぁ……誰か代わってくれないものかな…?」
「Buona mattina!(おはよう)今日は二人して暗い顔してお通夜かよっ?」

教室に付いて早々話し掛けて来たのはモミジだった、彼女は儂が家を出る30分も前に家を出ていた
その理由は分からないが…

「Buona mattina(おはよう)モミジ、何で今日はイタリア語なの?」
「それよりモミジ御主、如何して今日はこんなに早いのだ?」
「いや〜だって今日は学校でのWD(ホワイトデー)じゃん?」
「…御主は女であろう?それに儂等以外にあげてはおらんだろう」
「けど貰ったゾ♪勿論メスさんにwwニョホホホ〜(笑)だからボクちんお返しあげなきゃいけねぇのよ?いや〜モテるって良いねぇ〜これも
メ・ノ・ウ・姉ちゃんのお陰だぜぃ♪(第捌話参照)」

そう言ってモミジは笑いながら教室から出て行った

「女子なのに女子にあげるって…そっち?…う〜ん見てみたい様な見ちゃいけない様な」
「何を言っておる!、まぁ確かにモミジならどちらもイケそうだがな…」

「何を言ってんのよ?変態」

と、背後からいきなり誰かが話し掛けてきた、思わず方がビクリとなった
儂はその聞き覚えのある声が聞こえた方へと首を向ける

「あ、瑪瑙先輩…おはようございます」
「瑪瑙…が何故此処に居る?此処は一年の教室だぞ?」
「お返しを貰いにきたのよ、ほら、私一応此処じゃ人気ある方だし…、それにしてもその紙袋…?」
「あぁ全部お返しだ、言っておくが御主のは無いぞ?貰っておらんし」
「……律儀なカラスさんだこと、子犬ちゃんも偉いわね」
「…殴って良いかな?」
「ダメだよミツキ放課後にしなよ」
「そう言う問題かしら?…ふふ、じゃぁまた後でね」

「…何なんだ瑪瑙の奴?」
「今日の女子は男子以上にテンションが高いね…貰える側だからって浮かれんなよ、ねミツキ?」
「全くだ…ん?御主今喋り…

「先生が来る前に配ってこようよ?」
「そ、そうだな…」

何だか流された様な気分になったが儂は気にせずにショウに付いて行った、とりあえずは同じ階の一階からだ



「まずは同じ一年の教室からだね〜一組は…10人、ひゃぁ〜凄い人数だよー」
「儂は5人だな」
「少ないね〜…所でミツキは買ったの?僕は作ったよ、母さんに手伝ってもらって…」
「同じだ、儂も作った、しかし男が手作りとは如何なものかな…安く上げる為とは言え」
「同感、如何せんこういう場合は仕方がないもんね、さ、早く配っちゃおう!」

儂等は自作のリストを見ながら女子達に配っていった、彼女達は儂等があまりにも素早く配るものだから驚いた顔をしていた
当然だ、だかしかし今日中に儂は70人にお返しを配らなくてはならない
儂とショウは彼女達に「ゴメンね」と言ってその教室を後にした
次は三組、そして二年、三年が待っている…あぁ地獄だ

「………とりあえず…一年生は全て配ったな?」
「そう…だねぇ……後は休み時間だよ」

二人共汗だくだ、今は二月、冬だと言うのに儂等だけ八月の様だった
額に汗が滲んでいる

「木村君に火群君!早く教室に入って下さいHR(ホームルーム)を始めますよ?」

担任の基山だ、儂はヤバいと思いながら背後に居る基山の方を振り向いた
彼に話し掛けられたら顔を見ないとお説教を食らう事になる

「スイマセン今す…ってオイ!」
「…なんだモミジか〜驚かさないでよ?」

しかしその声の主は儂等の良く知る赤ウニ…モミジだった
彼女は声色を使って基山の真似をしていたのだ、全く悪趣味な奴だ

「でも早く入いんねぇとチャイム鳴るぞ?」

教室の壁の時計を見やる、既に時刻は8時49分になっていた、HRは50分からなので非常にマズかった

「(ギリギリだったね?)」
「(全くだ…)」




+++

「よーし次は二、三年だよ!」

ショウは気合の入った声で右拳を突き上げる、時刻は12時25分
手には鞄とお返しの入った紙袋を提げて…

「とりあえずさー飯食って行きなよ?」
「そのつもりだ…そういや御主、今朝方お返しをやるとか言っておったが御主はいつ用意していたのだ?」
「同時進行ー、ミツの手伝いでクッキー焼いてる合間に俺は別室で寒天作ってマシター♪The安上がりってやつな☆」
「寒天って…アンタ渋過ぎじゃない?」

ミカだ、最近は彼女も交えて一緒に昼ご飯を食べている

「そうかいな?でもお姐様達には結構好評だったよ〜♪美味しいって言ってくれたしv」
「良いわよね〜モミジはお菓子作るのも上手で、オマケに家事もこなすし…これで床上手なら文句ナシよね?」
「昼間から何言ってんねんアホォまぁ床はどうだか知らないけど才能は溢れてるね〜俺v何てなあ〜♪」
「自慢ですか〜お嬢さん?まぁ確かにモミジって絵も得意だし歌も上手だものねぇ〜でも性格が残念なのが玉にキズよね〜」
「ニャンだと〜!そう言うミカはあんまし得意なこと無いじゃんかー?へっぽこー」
「ニャンですって〜!!」

前方が煩い、如何して女子って言う生き物はこうも話し出すと煩いのだろうか?
儂は隣のショウを見た、彼も儂と同じく小さく溜息を吐く

「ほら、二人共ケンカしないで早く屋上に行こうよ?」

ショウの仲裁で彼女達は大人しくなった、まさに鶴の一声である
儂等は屋上に続く階段を上った、その階段は昼間なのに薄暗く螺旋状になっている
此処はあまり生徒には人気が無く授業をサボるのにはうってつけの場所である


「いっただきッス♪」

モミジが一番先に弁当に口を付ける、彼女は小さな顔の大きな口を開けて彼女の手製の唐揚げを一口で食べた
その表情は「幸せ」色に染まっている、モミジは食事をしている時が一番幸せそうな顔をするのだ
儂はその幸せ顔を見ながら小さくクスリと微笑(わら)った

「ほ〜んとモミジってこの時が一番幸せそうな顔するわよね〜?」
「うん☆幸せだよ〜♪ねぇねぇミカ〜そのウィンナーちょうだい?サンキュー」
「良いって言ってないってば、も〜ほらぁ口にご飯粒付いてるわよ?」

そう言って叶はモミジの口に付いた米粒を取ってあげている、まるで母親の様である
それにしても女の子がいると場が和んで良い感じである…あ、いや別に彼女達が好きとかそう言う事では無いぞ?

「ミツキ嬉しそうだね〜、で、ミツキはどっちが好み?」
「そうだな〜儂は…ってショウ!///いきなり何を言うのだ?!」

ショウは「だってミツキってば2人見てニヤニヤしてるから」と、どうやら儂は知らぬ間にニヤケていたらしい…
と言うか御主、何故聞くのだ?

「ちなみに僕は叶さんの方かな、顔もそこそこ美人だし意外と優しい所もあるしね〜」
「でも彼奴の料理の腕は最悪だぞ?この間殺されかけたし…でもまぁそれを除けば文句ナシだな、金持ちだし」

儂は親指と人差し指で輪を作って見せた、やはり最終的にはソレである(リアルではあるが)
するとショウも「確かに」と賛同する、勿論この会話が彼女達に聞こえてしまえばタダでは済まないだろう、しかし幸いな事に儂とショウが
居る場所からモミジ達がいる場所は2、3m程離れている、適度な距離だ(笑)

「でもなぁ〜手料理は食べたいしのぉ〜、あの性格でなければモミジの方が良いんだが…な〜一応顔立ちは悪くは無いし、あ、でも大食い
は少し直して欲しいかな…食べてる時の表情は可愛いと思うがな〜」
「クスクス、ミツキってば本当モミジの事が好きなんだね〜良いんじゃない?お似合いだよ」
「なっ///何を言っておる!そっちこそ叶とお似合いだぞ?いっその事付き合えばいいんじゃないか?」
「う〜んま、じきにね♪…ミツキこそモミジが誰かに狩られる前に捕まえておいた方が良いと思うよ?」

そう言ってショウが笑う、その顔は何かを企んでいる様なそんな表情だった
時々儂は彼奴の事が分からなくなる、普通に笑っているのかと思えば次の瞬間には真面目な顔付になっていたり
出会った当初は普通と言うより少し臆病な奴だと思っていたのだが

本当は慣れてしまえば結構内面は真があってしかっりしてたりと、今では滅多な事では驚くことも無くなっている

まぁ、それは儂がこの世界へと連れ込んだからだろうが…
儂は時々これで良かったのか?、と思う、勿論それはモミジや瑪瑙、叶に対しても同じなのだが…


「フッ…心配せんでも彼奴は儂の元から離れたりはせんよ、何せ、家に帰れば儂に良くくっ付いて来るしのぉ〜w」
「そうなの?…へぇ〜モミジって男勝りに見えるけれど、意外と甘えたがりなんだね…でもそれだと逆に恋愛へ持ち込むのは難しいだろうねー?」
「如何してだ?くっ付いて来るって事は心を許してるって事であろう…?」
「でもそれは君を男として見ているんじゃなくて、友達もしくは家族として甘えてるんじゃないかって事?まぁ所謂「妹」ってヤツ?」
「う”っ…、そ、そうかもしれんな…、言われてみればモミジの甘え方は儂の妹に良く似ておる……そうか…妹、じゃぁ儂は兄貴という
事か〜はぁ…」

ミツキが肩を落として溜息を吐く、恐らく今朝の溜息よりも深く大きい溜息だろう
僕はポンと彼の肩に手を置き「ドンマイ」と言った

「ニャニをコショコショはにゃしてるんだワン?」

背後からいきなりモミジが話し掛けてきた、儂等は驚いて後ろを振り向いた
しかし何故にネコ語なのだ?

「しかもニャンだかくっ付いてるし〜これは怪しいワンニャン♪」
「怪しくないっつーか尾語をはっきりさせろー!」
「おぉぅniceツッコミ★」

いつもの掛け合いもとい漫才、それと今のはnice(ナイス)とニャイスを掛けたのだろう、単純な言葉遊びだ
モミジは何のノリなのかミツキに執拗にベタベタとくっ付いている、それに釣られてミツキは顔を赤くしていた
一応手で抵抗をしていたが全く歯が立っていないと言う様な感じだ

「だぁー!!いい加減に離れろっ!?///全く…おわぉっ///コラァー何処を触っておるのだあーー!!いやっ止め…やぁー///」

あ〜あ、やられちゃってるよ、と僕はそんなミツキを冷静に装いつつ目だけで笑い見つめていた
彼、ミツキは女子、特にモミジには甘い、何をされようと本気で抵抗はしないのだ、何と言うかこのM男!と言う訳だ(笑)

「っていい加減にしろぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

大絶叫、と言うに相応しい叫び声、いつもならそこまでは叫ぶ事は無いが今日は違ったらしく先程よりも顔を真っ赤にして憤怒の表情を
作っていた、今にも襲いかかって来そうな勢いだ

「〜全く、何やってるのさ?モミジも白昼堂々こんな公の場で男子を襲うのは止めた方が良いよ?」
「そ、…そのとーりだ///!!!…はぁ…はあ〜……死ぬかと思ったぞ…」
「へぇへぇーおっと、カメラさ〜ん撮れましたかいな〜?」

全く悪びれない態度、まるで自分は何もしてませんよと言う様な何食わぬ顔をしている
ってカメラ?

カシャン

「ハ〜イバッチリ撮れましたヨ〜♪ご協力アリガトウゴザイマス〜ww」

後ろを振り向くと叶さんが立っていた、そして何やら手に持ってる、ビデオカメラだ
そう、叶さんはモミジに襲われているミツキを撮影していたのだ、何て計画的な女子達だ、僕は思わず拍手を送りたくなった
でもそれは出来ない、だってここで僕が拍手をしてしまえば確実にミツキにボコられてしまうからね♪

「って…叶?!………おぬぅしぃらぁ!!この阿呆!!!今撮った映像は全て消去しろ!////」

ミツキの頭に角が生えた、かと思いきや今度は背中から黒い翼が生えて来た
そう、ミツキは怒りのあまりに本性である烏天狗の姿に戻ってしまっていたのだ
僕は慌ててミツキの両肩を持ち「落ち着いてよ!」と促した、が、しかし、彼は僕の話は全く聞いておらずその姿のままモミジと叶さんの
方に向かっていった

「あっ…ちょっとこれはヤバくない……?」
「…あは…ハハハハハ………、ミっミツー!!さっきは悪かったって…って聞いてるー?………ちょちょちょっ…た、た、たタンマっ!!
タイムタイムタイム!!!」

バフォォンっ!!!??、突如大きな風が屋上中を包み込んだ
その風はまるで彼の怒りをそのまま再現したようなとてつもなく強い風だった、彼、ミツキは感情をそのまま力に置換するタイプなのだろう
更にその風は疾風へと姿を変えた

「ゴメンっ!!!ほんとーにマジで御免なさいっ!!!もうしないから!しませんからっ!!!」
「火群くんっ!!ごめんなさいっ!!!!全部消すからっ!!お願いだから許してーーーーー!!」

二人が必死で謝る、だがしかし当のミツキは怒りで我を忘れたのか彼女達の話を聞こうともしない
ミツキの肩を何とか掴んでいた僕でさえも吹き飛ばされる寸前だ、早くこの状況を如何にかしないと…他の生徒に見つかってしまうよ〜!!

しかし、その不安をよそに疾風は暗雲色へと色を変えた

「マズい…あの色は雷を打つ気だっ!!!叶さんっモミジ逃げてっ!!!」僕は吹き荒れる暴風の中彼女達に注意を呼び掛けた
だが、その声も虚しくミツキは二人目掛けて落雷を落とす

今にも地を貫く様な凄まじい音、疾風迅雷とは正にこの事だと身を持って体験した
刹那、今まで吹き荒んでいた疾風が一瞬にして姿を消した、しかし雷が落ちたとされる場所からはモクモクと白い煙が立ち上っていた
恐怖…、ほんの一瞬の出来事だったがこれは間違いなく恐怖体験と言うに相応しい…
僕はミツキの肩に置いていた手をそっと外し一歩二歩と後退りした

「……全く御主等と言う言う奴等は、どうだ少しは懲りたか?」

飄々とした顔で質問する、ミツキは先程とはまるで別人の様だった
僕は「今のは脅しだったのか」とホッと胸を撫で下ろした、しかし、直(?)で落雷を受けた彼女達はその恐怖でか一事も喋れなくなって
しまった様だった、まぁ少しやり過ぎな所もあったけれどこれはこれで良い薬になった筈だ

「…本当にビックリ知っちゃったじゃないかミツキ、でもまぁ叶さん達もこれに懲りてもう悪戯はやめなよ?」
「そう言う事だ分かったな御主等?」

「ふっ………ふははははははははははははーーー!!!」突然モミジが笑う、いや嗤う
一体如何したのだろうか…?

「何だ…御主まだ懲りぬと言うのか?ならば次は容赦はせんぞ?」
「あーはっはっはっはっっはっはっーーー!!!!片腹痛てぇよ〜!!ひぃ…ハハ……」
「ちょっモミジ…何笑ってんのよっ?!アンタ今の見てない訳じゃ無いんでしょ?」
「あー見てるよ?けど…こんなの八年前の雷に比べたら屁でもねぇぜ?ははっ…はー久々に良いモン見せて貰ったよ、thanks♪」
「…モミジ…、御主と言う輩はー…後で覚えてろよっ!、おっとこんな所でのんびり油を売っている場合では無かったなショウ、残りのお返しを
届けに行くぞ〜」

最後まで飄々としていたミツキだった、「全くもう本当君等って良く分からないなぁ〜」と思いながら僕はミツキの後を追った
その時の空は数分前よりも澄み切っていた


「…後で何されるのかしらね〜モミジ?、て言うか火群くんも酷いわよね!悪戯されたのが嫌だからって何もあそこまでしなくても良いと
思わない?…あ〜もぉー妖ってきらーいっ!」
「確かになー…でも俺はミツキの事は好きだよ?」
「……モミジねぇ〜、そりゃ私だって嫌いじゃないけどー…あぁそう言う事ねvフフフ隅に置けないわね〜」

ミカは何を勘違いしているのやらクスクスと笑いニヤケていた
俺は苦笑いしつつ「それは誤解だよ」と言った、しかし彼女は聞く耳持たずで俺の話を聞いていなかった

「良いんじゃない?お似合いよ〜wこの間だって良い感じだったんだし」
「この間?…あぁあれか…まぁあの時はちょこっとね…って何言ってんだよ俺ってばー///」
「イイジャンイイジャンゲロっちゃいなよ?」
「はいっ俺はミツが好きですっww」
「おぉぅ!言っちゃった〜言っちゃったよvじゃぁ火群くんのドコが好きなの〜?」
「えぇ〜顔も結構カッコ良いし〜手足長くて堪ら〜んだしおまけに頭良いし料理だってソコソコ出来るし〜う〜ん全部かなぁ〜wwきゃはw」
「やぁ〜マジィwwじゃぁじゃぁやっぱヤリたいとか思うの〜?」
「え〜そりゃぁ当たり前じゃん?好きなんだもの〜モノにしたいわよぉ〜wwあはんww」
「きゃぁ〜〜〜wwwイイじゃんイイじゃん?襲っちゃえ〜ww」
「は〜いモミジ襲いま〜すvvv」

「…な〜んて嘘っ★好きだなんて冗談だよ〜残念ムネ〜ン」

お馬鹿タイム終了、と言う様に俺は顔の前で人差し指を唇に付けウィンクした

「…何よー楽しかったのにぃ〜↓…でも嫌いじゃないんでしょう彼のコト?」

ミカが真面目な顔で向き直る、俺は少し緊張した面持ちで彼女の顔を見た
確かに俺はミツの事は嫌いではないけれど…

「うん、嫌いじゃないよ…寧ろ好きな方だよ、だって俺はアイツに命救われたんだからな…馬鹿かよって思うかもしれないけれど運命って奴?
感じちまったし……、アイツが告ってきたら迷いなくOKって言うだろうしね」
「…ふぅん(何よベタ惚れじゃないの)じゃぁ火群くんが他の娘を好きになったらどうする?」

私がそう質問するとモミジはう〜んと考える様に顎を擦る

「…う〜んそうだね、もしアイツが別の娘を好きになったらねぇ〜…応援する!…しかないよね」
「は?…何言ってんの?!アンタ火群くんの事好きなのよね?だったら…―
「と言うのは建前、そんなの無茶苦茶にぶっ壊すよ!アイツが他所の人を愛するだなんて考えたくないよ…まぁ、でもこれは俺の我儘
だけどねぇ〜」

爽やかに答える、きっと本当に本気の答えだろう
私は「我儘でも良いじゃない?好きなんだものそのくらいしないと、ね?」と答えた
モミジもそれに応える様にグッと親指を突き上げた

「ミカー、今の話はアイツ等には内緒な?」
「モチロン☆これは私達親友の秘密よ♪」



+++

放課後―4時20分過ぎ…
別棟校舎、屋上

春と言えどまだ寒い、日はすっかり橙色に変わっていた

「一緒に帰らなくて良かったの?叶さん」

そう尋ねてきた少年は私の顔を見ていなかった、眩しい筈の夕陽を目を細くしながら見ていた

「良いの〜だって私達がいたら邪魔でしょ?今日くらいは二人きりにさせてあげても良いんじゃない?」
「…そー言う事ね。ふぅ…本当君ってモミジの事が好きだよね?さすが親友」
「お節介でどうも〜ってうるさいわね〜!…それよかキムちゃんは良かったの?貴方本当はモミジの事気になってるんじゃない…?」

私は夕日の反対方向に背を向けてフェンスに寄り掛かり彼の表情を伺う

「そう言う叶さんはミツキの事好きなんじゃないのかい?」
「…そう来たか〜、ん〜まぁ確かに顔は良いと思うけど、性格は合わないかも…それにあの娘には敵わないわ」
「同感、僕もモミジは見た目は良いと思うけど中身がね〜性格がガサツなのは僕には合わないなー」
「…そうよね、木村くんって見た目通って言うか…奥手そうだもの」
「僕が奥手?…そうかな〜う〜ん少なくともミツキよりは手は早いと思うよ?例えば…君と話していてもその気になれば…

「ちょっと待った!…私そう言う冗談って苦手なの!///」

と言いつつも叶さんの頬はほんのり赤くなっていた、まぁこの夕陽の所為かもしれないけれど
僕はクスリと笑い彼女に近寄る、そして彼女の束ねた髪に軽く触れた
叶さんは驚いたのか肩を小さくビクリと上下に動かす、僕は彼女のその行動が可愛いと思った
まぁ、彼女にとっては単なる反射行動なのだろうけれど

「……木村くんっ///?………えーと…///」
「フフ…女子って単純だよね〜?たかが髪に触れただけなのに?」
「…だからそう言うの苦手って言ってるで…っ?!」

ス、彼が何かを差し出してきた
夕陽の所為で色は分かりにくかったが恐らく濃いピンク色だ、形は平べったい正方形、リボンのついた箱だった

「はいお返しだよ♪叶さん」

その笑顔は眩しかった、と言うよりも何かを企んでいる様な顔に見えた
私は怪しみながらもその箱を受け取る、重さはそう重くはなかった

「あ…ありが、とう?…、ねぇ…もしかしなくても今のって前振り?」
「さぁね〜♪」
「…でも私あの時あんな不味い物あげたのに…本当に貰っちゃって良いの…?」
「……う〜ん、じゃぁこの間足りなかった分は今頂戴、でどう?」
「今?!っているんかいっ?…良いけど、何が欲しいのよ?(て言うか私何も持ってないんだけど…)」
「そうだね…じゃぁ―



+++
「おっそーだ俺まだミツからお返し貰ってない!ちょーだいミッチー♪」

放課後、帰り道、尾花公園前

「催促するなよ?心配せぬとも今やろうとしておった所だ、ホレ」

ミツが鞄からお返しを出して俺に渡す、薄暗くてよくは見えないが多分オレンジ色の包みだ
形は巾着型で大きさは30pくらいだろう、感触からして食べ物ではないようだった

「thank youwwwI love youww」
「…また英語か///うむYou are welcome…(だよな?)」
「フフフ〜♪…でもさぁー俺達数か月前まで赤の他人だったのによ〜、不思議なモンだよなぁ〜こうやって友達になって、しかも同じ屋根の下
に住んでるなんて…腐れ縁って侮れねぇわな」
「…腐れ縁なのかあの出会いは?、あの時御主…明らかに儂等が居た事に気付いておったろう?」

久し振りな質問、と言うかそれを聞かれるのは初めてである
と言うか何故今頃になってそれを聞くのだろう、俺は表情無しにそう考えた

「……おぅ気付いてたよ、つーか俺は最初からミツに興味あったし」
「…///興味?、何だ御主もあの女子達と同じだったのか?」
「そーかもね…でも何でか分かんないけど、俺はミツと友達になるんじゃないかって分かってた、まぁ…でも同居する事は読めなかったけれど…」
「///……(そーかもって、あぁだから側にいるのか…///)それは御主の勘か?」
「勘…?ん〜〜〜勘かどうかは分からないけど、俺は他人の心が読めるんだ」

「…は?(何を突然)」
「今ミツは何を突然言ってるんだ?って思ってるね」
「ぬっ?!……(いや待てそのくらい勘で分かる、しかしモミジも幼稚な事を言うなぁ〜今時小学生でも言わんぞ)」
「そうだねー小学生でも信じねぇよなこんな事」
「…!!(あぇっ!!ちょっと待て…今のは勘で分かるのか?イヤイヤイヤきっと声に出してるんだな…そうだそうそう)」
「ミツの肉声は聞こえてないよ?ってもしかしなくても信じてないの?」
「ほ……本当に聞こえておるのか?テレパシー…?」
「まぁそんな所♪……でもこれが聞こえるようになったのはごく最近、凰(オウ)の力を手に入れてからだよ?、多分能力の一つじゃね?」
「…納得……それなら信じよう、しかし厄介な能力だな〜」
「そう?使い方に寄っては便利だよ?相手を怒らせずに話が出来たり、事前に嘘を見破って詐欺から回避出来たり」
「確かにそれは便利だな…しかし、普段の生活で他人の心が聞こえると言う事は身近な友人が御主に対して嫌な事を言っているのまで
分かるのではないか?逆に窮屈じゃないのか?」
「無問題(問題ないよ)もし、友達が自分に対して嫌な風に思ってたらそれを口に出して言われる前に改善すれば良いだけの事、じゃない?」

「要は使い方って訳♪」

「ポジティブだな御主…、まぁらしいと言えば御主らしいの〜、しかしモミジ馬鹿そうに見えて意外と賢い事を言うのだな?」
「酷ぇーなぁ〜(笑)…でもあんま聞きたくないけどね…、特にミツのは…」
「…儂のは…?」




「だって…ミツが俺のコト嫌いとか思ってたら死ぬほど悲しいもん」



予想をしてない訳ではなかったが儂は妙に心が苦しくなった
切ない、そんな気持ちだろうか



「…心配せぬとも儂はモミジを嫌ったりはせんよ」






儂は静かにモミジを抱きしめた



静寂の闇が二人に覆い被さる
辺りはもう陽が落ちていた