第壱拾参話 【巫女】



2月14日―土曜日 天気は若干曇りと言うか時々小雨(霧雨?)
今日は聖バレンタインディ、女の戦いの日である、そして男の負け犬決定戦の日でもあるのだ(苦笑)
は、一先ず置いといて…

「…ぇーと11時からミカとショウが来んだっけ?しかもまたジィちゃん居ないし…昼飯は俺が作るとして材料4人分あったかな〜」

俺は台所の入り口の前で人差し指と親指を顎に当てて唸っていた
本日は木村彰と叶実果子がウチこと神龍神社にやって来るのだ、何でもミツ曰くミカにも何かしら能力があるらしい
ま、俺はピンとも来なかったけど、妖力紙で調べなくても分る程に強い力があるそうな、本当かよ

「一人で作るのか?大変だろうに…折角仲直りしたんだ、叶にも手伝って貰えば良いだろう?」

さぁー…、今のミツの一言で俺は凍りついた
俺は首をギシギシと音を立てながら彼の居る左に顔を向けた、表情が固まる

「…おっ前ーなぁっに!恐っろしい事言ってんじゃいっ!!駄目だ駄目だ駄目だ!ミカに料理させてみろ全員ヘル行きだぞ確実に」
「真坂ー…ってマジで?そんなに拙いのか…?」
「マズいなんてモンじゃねぇ…アレは…兵器だな!原子爆弾より破壊力あるぜ、うん!」

モミジは両腕を組んで首を縦に何度も大袈裟に振った
その顔はどこか遠い目をしていた、その態度からも分る程に戦々恐々なのだろう…


+++
午前11時少し過ぎ―11時15分…天気は先程よりも更に悪化していた
曇天が暗さを増し小雨がざぁざぁと音を立て大雨に変わっている、時々雷の音が聞こえる

ピーンポォーン、と玄関のインターホンが廊下中に鳴り響く
俺は玄関に向かいガラスの引き戸を開けた

「らっしゃぃな〜♪」

「お邪魔するわよ」
「お邪魔しまーす」

玄関の戸を開くと二人仲良く入ってきた
ミカは山吹色のレインコートを着て赤のチェックの傘を差しており、ショウは黒の大きな蝙蝠傘を差していた
二人共足元が濡れていたので俺は肩越しに振り返りミツにタオルを持ってくるように言った、すると廊下の向こうでかったるそうな返答が
遅れて聞こえる

「しかし外は雨が激しいんだなーま、豪雨だっけな?」

俺は玄関の簾の所に腰を下ろした

「うん、凄い雨だよ本当、ねぇ叶さん?」
「そうそう、しかも風も強いし飛ばされるかと思っちゃったわよ〜うぅ寒ぃ…タオルまだ?」

この家は外観よりも随分広い、にしても遅すぎる…

「オーーイミツぅーー!!まだかよ早くしろっつーのっ!」

タタッ、廊下の向こうから掛けて来る音がした

「すまぬな、脱衣所にストックが無かったから、まだ仕舞ってなかったし…」
「あー…無かった?悪ぃ悪ぃご苦労さん」

俺はミツが持ってきてくれたタオルを二人に手渡した、二人はタオルを受け取ると濡れた箇所を拭いて廊下に上がった

「それにしても驚いたわ…まさかモミジが火群君と住んでるなんてね〜しかも火群君の家が神龍神社だなんて…」

ミカは辺りをキョロキョロと見回していた
確かにそれは俺も驚いた

「違う違う、ココはミツんちじゃないよ〜正しくは居候してるだけ、な?俺もそうだしな」
「へぇそうなの…それにしても大きな日本家屋よね〜」
「あに言ってんのさ、ミカの家の方が何倍もデカイじゃねぇかよ?つーかアレどう見たって城だし」
「そんなに広いのか?叶の家は」
「広いなんてもんじゃねぇ、あれは広大って言う方が正しいな、ホラ、学校の正面から白のデッカい建物見えるだろ?あれがミカんち、
庭も広いし何てたって敷地内にこれまたでーかいパーティ会場が建ってるし…半端ねぇよマジ」
「…金持ちとは聞いていたが、まさかあの城に住んでるとはの…テーマパークじゃなかったのかアレ…?」
「僕は知ってたよ、叶さんがセレブだって、だから女子は皆叶さんに媚売ってるもんね?」
「全く…皆私のお金が目当てで集ってくるのよ?どうせなら私よりセレブな男子が寄って来て欲しいものよ〜はぁ…↓」
「…いや、多分オメェより金持ちなんていなそう…だって世界金持ちランキング上位だしお前ンち」

上位?!、とミツとショウが異口同音でミカの顔を見やる
ミカはそうよ、と笑顔で返す、その隣で俺は苦笑交じりに小さく溜息を吐いた

「ここが居間な、ま、、適当に座っててよ、ミツー飲み物運ぶの手伝ってくんねー?」

俺はコタツに潜りかけていたミツにそう言うと彼はこれまたかったるそうに生返事を返す、この男は本当に客人の接待が下手である
と言うかそういった類が面倒臭いのである、両親にそう言う事は習わなかったのかお前は…(呆)

「…でも、どうして火群君は兎も角モミジがここに居候してるの…?家を追い出されたとしても…別の親戚の家に行くはずじゃ…?」

叶さんが独り言の様に呟いている、僕もミツキからモミジの事を聞いてかなり驚いた
最初から変わった娘だとは思っていたが、まさかあんな過去があるとは流石の僕も驚愕の色を隠せなかった、叶さんはそれを聞いて
どう思うのだろうか…親友と言う位だからある程度の事は知っているだろうが…

「木村君はモミジの事何か聞いてない?ホラ、貴方達仲が良いみたいだし…流石に四年も離れていたから風の噂では何となく聞いていても
詳しい事までは良く分らないし…」

叶さんは隣に座っている僕の顔を寂しげな表情で見つめてくる、栗色の大きな瞳が曇りの色を帯びていた
その顔は不安に満ちている、僕は彼女の正面を見やり小さく息を吐き出す

「モミジは…緑川から逃げて来たって、僕はそう聞いている、何でも必死だったって…ここの家主さんは神主でそういうのは放っておけない
らしくて…って本人が言えって…本当の所は僕もミツキも良く知らないんだ、モミジはあまりその事には触れないから…」

僕は言い終え目だけを左側の台所に立つモミジに視線を向ける

「そう…、あの子緑川から逃げてここに来たの…、得策よね あのままあの家に居たらいつか緑川に殺されてしまうもの…後で詳しい
話を直接搾り出すわ」
「ぇ…搾り出す?」

僕は彼女の発言に質問した、聞き出すではなく搾り出すって…それって無理矢理吐かせるって事かな…?

「ショウミカー緑茶でいい?菓子煎餅しかないけど」

古色な朱色の盆を抱えたモミジがお茶を運んできた、その後ろから火群君が煎餅の袋を持ってやって来た
白の湯飲みからは仄かな湯気が立ち上っている

「略すなバカモミジ!…何でも良いわよ、それより聞きたいことあるんだけど…そっちの話長くなりそうかしら…?」

ズズ、ミカが熱い緑茶を啜る、俺はお膳に置いた煎餅の袋を手に取りその口を開けた、そして一枚を取り出しミカに渡す

「ありがと…あのね、私の話…」
「俺がここに居る訳だろ?さっき聞こえてたぜ、あぁ俺はあんなクソッ家から逃げた、つーか完全に裏切ってきたんだ!ま、苗字だけは
緑川のままだけど、な 機会があったらあの家に殴り込みに行く、んで、完全決着付けてやんだ!んでもってマキエのババァの鼻っ柱を
バキ折って顔面グッチャッグチャにしてで、臓物全部引き摺って燃やしてやる!まー完全報復だな、ははっ」

モミジは大声で腹黒く鼻高々に哂うその顔は正に魔王、いや閻魔大王の顔である
儂は思わず悪寒を覚えた

「面白い夢ね、モミジらしいわ…その時は私にも手伝わせてね?でも…その顔は止めた方が良いわよ?まるで火●スの犯人みたい…」

叶はモミジの腹黒い発言を面白い夢と言い切りクスクスと笑っていた
御主等二人は魔王の手先か?

「おっナイシィングなツッコミ♪でも俺ぁコ●●の犯人の方が良いな、って大して変わらんっての!」
「ふふ…、でも、ま、成る程ね良く分ったわ…さぁて…火群君達の話って、何かしら?」

叶の表情が一瞬で変わった、思わずビックと肩が上がる
先程までのおちゃらけた表情とは違い真剣な面持ちだ、儂はゴクリと唾を飲み込む
そして正面の叶を見やった、場の雰囲気も徐々に色を変えてゆく

「単刀直入に言う、御主には徒人(タダビト)にはない不可思議なチカラが在る…儂はその力が何なのか調べたい、という訳だ」

叶の表情が僅かに変わる、しかし刹那、彼女は眉根を寄せて目を半眼にし小さく溜息を吐いた

「…それって私に魔力があるってこと?ゲームじゃあるまいし…でも、呼び出して言う位だし本当なんでしょうけど、証拠を見せて
貰わない事には信じられないわね?それと、最後の「という訳だ」は付ける位置が間違ってるわよ?」

ミカは剣呑な表情でミツにそう言った、言ってのけた
彼女はいつもそうである、相手が誰であろうと自分より優位になって話すのが嫌いなのだ、取り分けミツの様な人は苦手である
彼は話しをする時は真面目に話すが、いつも自分が上に立つ癖がある

「お、確かにな♪ 証拠ねぇ〜ぶっちゃ
ミカ以外はそっち系なんだよな〜んじゃドロンと妖怪変化でもしますか旦那・達★」

モミジが儂とショウを若気た笑みで面白そうに交互に眺めやった
やれやれと言う顔で儂はのろのろとコタツから出た、冷たい空気が足を刺す

「妖怪…?」
「そうなのよ〜ドロン♪」

俺の声を合図に俺とミツは本性に戻った
ミツの周りの空間が一瞬歪む

「…これが証拠だ、どうだ驚いたか…?」
「カーァカ!!(どぉだ?)」

私は思わず目を見開いた、先程は半分冗談だと思っていたのでまさか本当に姿を変えるとは…
コタツの中に隠れている左の手の甲を右の指で強く抓った、痛い、本当の様だ

「…鳥…よね?ぇ…何これ?」

赤い色の鶏くらいの鳥と、黒い羽で同色の耳と尻尾の生えた生き物がそこに居た
思わず立ち上がる

「儂は妖、烏天狗だ そしてモミジは…鳳凰だ!ついでにそこのショウは札を操る札遣いだ」
「ついでって何だよ?酷いな〜よいしょっ…」

僕も立ち上がる、そしてズボンのポケットから召喚符を取り出す、最初にミツキから貰った鎌鼬だ
そしてそれを召喚した

「鎌鼬っ!」、札の周りの空間が歪み鼬の出で立ちで前足に鋭い鎌状の爪を生やした鎌鼬が出現した
鎌鼬は出てくると叶さんの方に短い足でタタッと歩み寄った、その仕草はまるで栗鼠か何かの小動物である

「…鳳凰に札遣いに…可愛い小動物…と烏、天狗?…」

叶の表情が疑問に満ちていた

「ありゃま最後疑問系?」

俺は鳥の姿から羽だけバージョンになった、そしてミツも人間の姿に戻る

「…だって何か違う…わよね?何処の萌えキャラよ…?あれ…?」
「イヤイヤイヤイヤ、あれでも一応は妖なんだわな…多分、萌え系だけども、で…?」
「〜…ぅ〜ん信じます、て言うかネタにします!」
「イヤイヤイヤイヤ、ネタはアカンて ベタだからこう言うの」
「ツッコむ所そこ?」←ショウ
『うん、そこ』

モミジ&叶さんの親友Wツッコミ、て言うか話題脱線してない?
何だかオタクな会話になってきているような…

「…〜えーと、御主等二人、お喋りしている所悪いが…話コッチなコッチ」

儂は両手で手招きする様に二人に呼びかける、モミジと叶は「こりゃ失敬♪」と言った顔で苦笑いをして向き直ってきた

「驚いておらんのは良しとして…コレを説明するとだな…
「知ってるわ、この間モミジに聞いたもの…えっと、火群君は神主さんに拾われたんだっけ、でー木村君は巻き添えなんですってね〜」
「…御主な(怒)拾われたって何だ、拾われたって、儂は行き倒れていただけだ!」
「酷いよ〜巻き添えって…あ、でも強ち間違ってはないか…たまたま能力があっただけだし…うん」
「へ〜火群君本当に行き倒れてたの?…ふーん…、何かありきたりな設定ね、ベタよねぇ〜」
「イヤイヤイヤイヤ事実だから、でも確かにベタだなうん」
「また脱線してない?」

ショウが静かにツッコむ、その問いにミツだけが反応する
俺は耳だけをそよがせてショウの顔を見た、それに気付いたのかミカも彼の方を見やる

「…すまぬのショウ、でー…何だっけ?」
「もぅ忘れないでよ!(怒)、説明してたじゃんっ↓あ、でも叶さん知ってるて事は…信じてるって事?」
「当り前じゃない?私、見えるものは信じる方だから安心してよね?…まっ私もモミジと一緒で面白い事は見逃せない性質なのv」
「あぁ良かった、ねミツキ?」
「う、うむ…では本題に入ろうか、叶…御主にも力が在ると言ったな、すまぬがこの紙を一枚取ってくれぬか?」

そう言ってミツはズボンのポケットから妖力紙を取り出す、それは薄い茶の桜の木で出来た付箋ほどの小さな長方形の入れ物に入っている
蓋も同じ素材で、スライド式になっていて、中の妖力紙は象牙色の和紙に似た紙で出来ている

「付箋の様な紙ね…もしかしてこれで力を選別するのかしら?」

そう言いながらミカはミツの持っている妖力紙を一枚剥ぎ取る
すると、スゥ と薄い青色に変化し、そして妖力紙はサラサラと砂の様になって滅えていった
ミカは目を丸くして無言でミツの顔を見た、それを見たミツはミカよりも目を丸くし見開いた、その顔は何かを訝っている様に見えた

「…これは、如何いう意味なの?」
「…………、何だこれは?儂もこんなの見たことないぞ…砂になるのなんて…でも確かに何らかの能力があるよう、だな…?」
「アバウトね〜貴方本当に妖?」

ミカが訝しがる目でミツをじぃっと睨み付けた
俺もミツを見やる

「なぁミっちゃん何か調べるものとかないの?」
「…あ、ある、にはあるが…、少し待っててくれ今調べてくる…!」

そう言ってミツは席を立った、俺も彼の後を追う
向かった先は二階の彼の自室だ

「…あった、これだコレ!」

ミツは薬箪笥の一番右端の下の引き出しを開けて何かを取り出す、それは古色化した赤い図鑑の様な分厚い本だった
金色の箔押し文字で妖界図鑑と書かれていた、だが随分と字も剥げていた年代ものなのか…

「妖界図鑑…?何さこれ〜真ん中に描かれてるのって唐傘お化けだよな〜」

ずぃ、とモミジが背後から覗いてきた、儂は思わずわぁ、と声を上げてしまった

「…モっ、モミジ///!!…御主何故付いてきた…」
「ア〜ニ動揺してんだよ?俺だって気になるしさーあ、この本に書いてんの?早く調べてみー」
「いっ今調べるから、急かすなっ」

驚いた、と言うのもこの妖界図鑑は儂の子供の時からの唯一の宝物なのだ、書いている内容はしっかりしているが、何しろ書き方が幼い
のだ幼少の頃に買って貰った物だから仕方が無いが

「ふっへ〜それお前の宝物なんだぁ〜v」

ブフゥッ!?、思いっきり噴出してしまった
その勢いで図鑑に頭突きをした、鼻が当たって痛かった…

「っ…儂、今の、言ってたの?嘘…マジでかマジで?…///↓」
「ん♪カン☆テキトーに言っただけなのにアハ、そうなんだ〜良いじゃん宝物があるなんて」
「…御主〜///…これはな昔母に買って貰った物なんだ…」
「へーお母さんにかぁー羨ましいなー…そっかミツはお母さんいるんだよなぁ…」
「…モミジ…」

彼女には母親がいない、それどころか本当の家族と呼べるものがいないのである
儂はすまないこと言ってしまったなと、心が苦しくなった、そっとモミジの顔を見やる
俯いていた、儂は普段ならそんな事はあまり思う方ではないが彼女の事を正直「可哀想」だと思った
まぁ本人に言えば確実に怒るだろうが…

「…すまぬな、その、無神経だな儂…って…御主は一人ではないぞ、儂や皆もいる…うむ」
「?…優しいなミツは 有難う、でも気なんか使うなって、余計辛いからさ…」

その表情はやはり曇っていた、更に心が痛む
ズキン、と―

「…そんな雨空みたいな顔をするな、止まない雨などない、それでも雨が降り続けるならば…儂が太陽になって御主を照らしてやる」
「………クサ」
「…うるさい///、…そのあれだ皆御主が―好きなのだ!」

ガラッ!! とその瞬間、部屋の襖が勢い良く開いた

「マッジィーーー!!?今告ったよね?」
「うんうん告った!!ミツキぃ〜やるじゃんヒュ〜w」

ミカとショウだ、いつから覗いていたのか…

「…っ///!!!!!!!??御主等ぁーーーー!!いっいっ何時から居たのだっ!!」
「んと、好きなのだ、から☆へぇ〜まぁ同じ屋根の下で暮らしてりゃムラムラするわよね〜モミジって結構美人顔だしv」
「やるねぇ〜★で、でモミジはどうするの?返事は?返事は?」
「…バッカでぇーあんのなぁ〜今のコクハクじゃねーよ?コイツは俺を励ましてくれてただけ、よ?」
『ぇっ何だぁ〜違うの?』

声を合わせて俺達を睨む、お前等こそ仲良いな(笑)
フッと向かいに居るミツの顔を見た、案の定目を逸らし「当たり前だ」と、そう言ったが顔は耳まで真っ赤になっている
まぁ、満更でもないのだろう

「…で、脱線しちゃったけど、私の能力ってどんなのなの?」

ミカが話を戻す、俺は向かいのミツの肩をポンと叩いて呼び掛けた
ミツは一瞬我を忘れてハッとした様な顔をした、先程の事で動揺していた様だ

「……ぇと、…何だったっけ…?」
「バ〜カ、ミカの能力だよ?属性は何なのさって聞いてんの」
「あぁ…属性は…今調べるから……あったぞ!叶御主の能力は…巫女?」

『巫女?』

モミジとショウが異口同音でそう言った、当の本人はと言うと―

「…巫女、あぁシスターね、やっぱり能力(チカラ)があるのね…?」
「ほへぇ?……
What does it mean?(どー言う事だよ?)」
「叶?…やっぱりと言うのは……?過去にそういう者が居たという事か…?」
「そうなの叶さんっ?」
「…三人共…、そんな一片に質問しないでよ?えーっとね…私のご先祖様、どの位前かしら…確かお母様の方のご先祖だって聞いたから
…そうそう!おばあ様のおばあ様のおばあ様のお母様がゼロップって言うドイツのシスターなのよ、その人は常人には使えない能力が
あったらしいの、不思議な力であっという間に怪我を治したり病気なんかも簡単に治したって…」
「それだ!叶、そのドロップ?以外にその能力を使える者は居たか?」
「ゼッロプよっ、居なかったわ…多分、でもそんな古い人の能力が…12代目の私にどうして?今更出て来る事ってあるの?」

それもそうだ、そんなに古い人物が例え強力な力を持っていようと血が薄れている現代(いま)になって出て来る事はほぼゼロ
あるとしても軽い霊感位なものだ、勿論それでは妖力紙でも反応は先ず無い、あるとすれば―

「いや…、無い筈だ、もしかすると…御主はそのド…ゼロップの生まれ変わりなのかもしれんな それならば力があるはずだし」

生まれ変わり―生きとし生けるものは皆己が躯(カラダ)に魂(たま)が宿っている、死すればその魂は躯を抜け、浄化され
新たな躯を得るのである
だが、稀に浄化されずにそのまま新たな躯に宿る事がある
そして、叶の場合は更に稀で浄化されずに同じ血縁者の躯に宿っているのだ、その確率はほぼ皆無である

「スピリットループ?」
「何それ…?」
「まんま生まれ変わり、ミカの先祖がドイツ人なのは昔聞いてたから知ってたけどね」
「…で、どうやったら力が使えるの?あなた達みたいに力を使ってみたいわ」

ミカはワクワク顔でミツの顔を見つめる、ミツはうぅっと言うような顔でコホンと小さく咳払いをする

「…うむ分かった、がー…しかし、儂も巫女の力のある人間に出会ったのは初めてだからなぁ〜…とりあえず力穴(リョクケツ)開くか」

そう言ってミツはパシっと左の手の腹に右手拳をぶつける、その顔は真剣…いや、半若気だった…
何やら楽しそうである(呆)

「力穴?それを開けば力が使えるのね?…ってアレ…火群君?何かニヤケてない…ちょっ指鳴らさないでよ…モミジねぇ私何されるの…」

ミツはコキッコキと右手の指を鳴らしている、奴はどちらかと言えばサディスティックな方なのだろう

「心配すんなぁ〜ってキヒヒヒ ちょっとだけ●されるだけだから…なぁー?(笑)」
「するかっ///!!伏せなきゃいけないことなんかするかっつーのっ!!ただ小突くだけだから!」
「え〜子作…
「規制しろォモミジ!!これR指定じゃないから!」
「…必死だねぇミツキ君(笑)、まぁ僕もその力穴ってのは良く知らないけどね」

一人ショウだけは微笑みつつ冷静に傍観していた
性格的には彼が一番サドなのだろうか…それよりも早く始めろミツ

「だぁーも!漫才やってる場合じゃなくて早く力穴開くぞ、モミジしっかり叶を押さえておけ吹っ飛ばないようにな」

その顔はやる気、いやヤる気満々に見えた
だがしかしその表情は真剣そのものであった、一応…

「…死なないよね?私…大、丈夫よね?」
「………………
Noproblem↑?(大丈夫だよ)死んだら埋めてあげるから心配するなってミ・カ☆(笑)」
「殺す気満々だね〜ハハハ」
「木村君っ!!笑ってないで助けてよ!」
「…コホン、死なんわ阿呆、一瞬で終わる目を瞑れ少し痛いが我慢してくれ、な?」

そう言って火群君は優しい笑みを浮かべて小さく小首を傾げた
不意にドキッとする、だがその半分以上は何をされるか分からない恐怖で頭が一杯だったが

「いくぞ叶…最大解放!」

トドォンッ!!!
ミツはミカの正面から左胸、つまり丁度心臓の有る辺りを人差し指、中指、薬指の三本で力一杯突いた
彼女の体は背後で支えていた俺に目一杯ぶつかる様に寄りかかってきた、凄く痛いのだろう一瞬体が硬直していた
前回(瑪瑙)は盆の窪(後頭部の下、第七頸椎の辺り)を小突いていたが…

「…っ…はぁー…っ、巫女の力を解放する時は此方が力を込めないと逆に力を吸い取られてしまうからな…っあっ」

よろり、ミツの体が後ろに傾く、このまま行くとベタにズッコけケてしまう
その時、近くに居たショウがハッと気付き駆け寄る

ぱふり…っ、ナイスなタイミングでミツの体をキャッチした

『お〜』

息ぴったりな俺とミカ、そしてニヤリと笑う(と言うか若気…)

「だっ…大丈夫ミツキ?もしかして力吸い取られたの…?」

心配気にショウがミツの顔を覗き込む、ミツは目を眇めてはぁはぁと小刻みに呼吸していた
相当な力を吸い取られたのだろう、額に隠れた汗が見えるようだった
ガクンと膝が落ちる

「っ…!?足が―」

直角に膝が折れショウ共々体勢を崩す
ショウはゆっくりとミツを床に座らせる、彼の脚が僅かに震えていた

「よし」
「す、まぬなショウ…不覚だ 力穴如きに…っ真坂これ程の力を吸い取られるとはな…」

ガクと頸を下げ小さく呟く様にそう言った、声帯も震えているのだろう声に力がない

「御免なさい…私の所為で、本当に…」