第拾話 【鳳凰 終】

1月18日土曜日の午後―
午前中は強かった風がすっかり止まっていた
昼食を終え、今から昼寝でもしようかなという雰囲気だった

「ただいまーモミジー茶の用意はしてあるか?」

ミツが近所の饅頭屋「清水庵」から帰ってきたのだ、この後メノウ姉ちゃんがやって来るのだ
昨日の件についてだが…

「一応なーけーどさ、メノウ姉ちゃん忙しいから玄関以上は上がんないんじゃないかなー?」
「そうは言っても客人を持成すのは常識だぞ?」

ミツは帰る早々台所に向かった、俺が用意した茶の丸い盆に買って来た菓子を乗せている
俺はごろ寝していたコタツから這い出ると立たずに台所を覗き込んだ
柑子の形を模した餡子菓子だった、前の家にいた時に一度見た事があった、確か一つ250円くらいした

「……おめぇ幾つだよ?つーかメノウ姉ちゃん餡子嫌いなんだけど…」
「そうか、まぁいい後で儂が食う」
「ずりー俺が貰ってやるよー」

そう言う御主の方がずるいと思うのだが…まぁいっか

「しかし…今日も冷えるなーさっき雪がチラついておったしな」

ミツは寒そうにいそいそとコタツに入ってきた、背中を猫の様に丸めて両腕をコタツの中に押し込んだ

「…ミツって寒がりなんだなー烏天狗って寒いの苦手?」

余りにも寒そうにしていたので思わず訊ねてみた、そう言う俺も結構寒がりだったりする
コタツに入っていてもまだ足先が冷えている

「どうだかな…儂の住んでいた所はそんなに寒くなかったから、まぁ儂は苦手だな、どちらかと言えば暑い方がマシだ」
「あ、俺も夏は平気☆昔さーロシアに行った時にマフィアに追いかけられて親父と逸れてさー、気付いたら森の中に居たんだわー
で、3日かな?寒い森の中を彷徨ってねーそれ以来寒いのが苦手になっちまったんだわー」
「御主…サラリと重い話をするなよ、つーかマフィアって…何をやってんだ」
「わっかんねーまぁいつもの事だったし…そう言えばもう一人いったけ…」

俺はどういう訳か昔の事を殆ど思い出せないのだ、育ての父がジャック・スパルタンだと言うことは覚えているが
だが、もう1人いた、同じ年の…女の子?

ピンポーン

玄関のインターホンが鳴った、恐らくメノウ姉ちゃんだろう

「俺が出る!」俺はそそくさとコタツから出て玄関へと向かった

「いらっしゃいっメノウ姉ちゃん!」

俺は玄関の引き戸を開けると同時に挨拶をした

「お邪魔するわねモミジ、富枝さんの家の裏手だったのね」
「元おばさんチな、寒いから中入って」

メノウ姉ちゃんは渋々家に上がった、手には塾の鞄を提げていた

「あまり長居は出来ないわ」
「わーってるよ大丈夫♪アイツにも手短に話すよう言っとくから」
「お願いね」

「瑪瑙、良く来たなまぁ入れ」

ミツはコタツに入ったまま左手でメノウ姉ちゃんに手招きをした
面倒臭いのは分るが彼女にそれは失礼である

「相変わらず生意気な喋り方ね、目上に対する礼儀がなってないわ」

そう言いながらもメノウ姉ちゃんは彼の座っている正面に腰を下ろした
俺はすかさず台所に向かい用意してある茶と茶菓子を取りに行った
これでも一応最近までイイ所に住んでいたからな、慣れているのだ

「うぬぅ…御主こそ生意気ではないか、たかが一つ上なだけで…」
「あら常識よ?そんなんじゃ女の子に嫌われるわよ?」
「余計なお世話だ瑪瑙…」

ミツは眉根を寄せていた、育ちの良いメノウ姉ちゃんはほぼ誰に対してもこの態度だ
一方の彼は態度からして育ちはあまり良い方ではないらしい

「どうぞメノウ姉ちゃん」そう言って俺は彼女に茶を出した、一応菓子も付けて

「あら、有難うモミジ、で、魅月君お話の方は?時間が無いから手短にお願いね」

メノウ姉ちゃんは窓際のテレビの上に置いてある置時計をチラリと見た

「うむ、では手短に話そう、単刀直入に言う儂は妖だ、モミジ彼奴もそうだ、そして御主はその力に近い能力を持っておる」
「……成るほどね、つまり簡単に言うと妖の貴方が人間界に来てモミジやあの子にもその力があると分ったで、私もその力を持つ
一人って訳ね」
「っ…簡潔に言うな御主・・・、と言うかそこまで言っておらんがな」
「メノウ姉ちゃんは頭脳明晰だからな〜昔よく俺も鍛えられたっけな〜」
「そうだったわね、そのお陰で普通の子より鋭くなったのよねモミジは」
「…何処に突っ込めば良いのやら…、で、分ったのなら説明はせぬがその力とは…モミジ何か棒を持ってきてくれんか?」

彼は俺に命令した、俺は「何で俺がアッシーなんだよ」とボヤキながら辺りを見回した
テレビの横の小物箪笥の二番目の引き出しから何処ぞの景品か何かのボールペンを取り出しミツに投げて渡した

「ホイッつーか俺は棒じゃなくて穴だけどな〜(笑)」

と、某●魂のアバズレホステスの様な台詞を吐いてみた
メノウ姉ちゃんはクスクスと小声で笑っていた、ミツはと言うと意味不明という顔で俺を見ていた、子供だな〜

「…何だか良く分らんが瑪瑙、このペンを持てそして軽く目を瞑れ」
「あら、何をするつもり?」

メノウ姉ちゃんはまたクスと笑いミツを見やった
彼をからかっているつもりだ、だがしかし当の本人はそれに全く気付いていない

「力穴(リョクケツ)を開き力の解放をする」

力穴とは素質のある人間の力の解放、つまり力を使える様にする儀式の様なものだ
首の後ろ、盆の窪を擬似した力(この場合はどんなのでも良いらしい)で突付くと使えるようになるらしい
ちなみにそれを一回やるとある事をしない限り元には戻れない、尚、メノウ姉ちゃんやショウの力は陰陽師の力に酷似しているそうな
つまり妖を召喚したり、自然の力を自らにとり憑かせその力(例:炎や水を操ったり)で戦うのだ

「いくぞっ少し力が入るが我慢してくれ」

トンッ、右の人差し指と中指を真っ直ぐ付け指先に力を込め、盆の窪を付いた
メノウ姉ちゃんは一瞬眉間に眉を寄せた、瞬間右に数センチ頸が揺れ動く、軽く所かかなりの力である

「―…終りだ、良いぞ目を開けろ これで御主も儂等の仲間だ歓迎するぞ」

ミツはニコリと笑うとメノウ姉ちゃんに向けて右手を差し出した、俺はそんな彼の顔を見たことは無い

「…10分、ね、なるほどこれで力が使えるのね?力を込めればいいの?」

頭脳明晰な彼女は早速そのペンに力を込めた、同じ力を持つ者同士にしか分らない微妙な力の波動を微かだが感じていた
目に見える訳ではないが何となく風のイメージがした、昨日ミツが言っていた通り彼女は風を操る力が在る様だ

キラリ、手にしたペンが僅かに光を放った、その光は徐々に増して今の彼女の限界だと思う所で止まった
それはまるで―

「切れ掛けの電球みてー」思わず口に出てしまった
その瞬間、メノウ姉ちゃんが俺をギロリと睨み据えた

「モミジ、最初は誰でもそうだ…そうだ折角だ本来の姿を見せよう、モミジは…
「ウッスゥ!!んじゃっ俺も鳳凰姿を見せようじゃねぇか(笑)」

俺はニヤケながら無意味に両手を合わせてパッシと鳴らした
隣のミツが面を食らった様に俺を見ていた

「御主…イキナリ出来るのか?」
「ダージョゥブ♪昨日夢に俺の中に眠る(?)ホンモンの鳳凰が出てよ何か良く分んねーけど力くれてさ、まっもしかしたら出来るんじゃ
ねーかって」
「手短にね」

メノウ姉ちゃんは俺達2人をまた睨んだ、怖いってマジ…↓

ヴヴン…彼の周りの景色が一瞬歪む、刹那、ミツの姿は烏天狗に変わっていた
昨日夢で見た彼とは姿形は同じども雰囲気がまるで違う、何と言うか品が無い(笑)ミツ(本物)はどちらかと言えば無邪気な少年だから

「…あら、仔狐?可愛らしいわね」

漆黒色の狐の耳に同色のふわりと大きな尾、背中には烏の様な艶やかな翼を生やしている
パッと見烏天狗だとは分らない、何処ぞの萌えキャラだ(爆笑)

「烏天狗だっ!!見て分らぬのか?」
「そうなの、イメージと違うわね…もっと怖い姿だと思ったわ」
「それは人間が勝手に作り出したモノだ、妖は人と変わらぬ姿をしておる、御主等が知っておるのは妖怪の方だ」
「…妖=人間、妖怪=動物って事ね?じゃぁモミジは鳳凰だから鳥、妖怪って事?」

「グゥゥゥゥゥー!!」

ヴォゥッ、ガスを付けた様な音をさせ、モミジが炎に包まれた
徐々に大きさが変わりその炎も小さくなってゆく

「カァー!(これが鳳凰の姿だ!)」

赤くて大きな鳥…鶏くらいの大きさの鳥がそこに居た
まるでピ●●●ウ…

「…あらあら、随分小さな鳳凰だこと」
「モ、モミジぃっ!!うっそ…何だこれ?小ぃっさ」
「カーカァーー!!(ガァー俺だってこんな姿になるなんて知らなんだ!!!)」

知らなかった、夢で見た彼奴は2mを超えるほど大きかったのに
俺はもう一度同じ事をやってみた

ヴォオゥ…、火力が弱まる
みるみる姿が変わってゆく、残ったのは紅蓮に燃える翼だけ

「…あら今度はハイブリットねまるでウ●トラマンの怪獣みたい」
「…ハナからそっちで行けよ」
「分ったらやってるよ!…しかしすげーなコレが俺?うっひょー天使みてぇwお、動くのな♪」

俺はその羽をバサバサと動かしてみた、背中がムズ痒い

「はは…差し詰め悪魔だろう?」
「むっ(怒)」

「じゃぁ私塾があるからまたねモミジ、魅月くん」

メノウ姉ちゃんが帰っていった、本当に忙しいのだ
今はまだ2年生だが来年は受験生、緑川は名門家なので殆どの人間は大学を出ている、もし、俺もまだあの家に居れば
ほぼ確実にその道を辿っていただろう

「…人間は忙しいな〜こっちまで気が急く」
「ミツだって来年は受験生だよ?頑張らないと良いトコ入れないよ〜」
「御主もな、知っておるぞ御主の成績 ブービー(最下位から2番目)なのだろう?その方が不安だな〜」

そう俺は万年馬鹿なのだ、違うっ阿呆だ!阿呆の方がマシに聞こえるの!ってどっちでも良いわっ!!
これでも頑張ってるのになぁー報われねぇーし何でだよ?

「ミツは何もしなくても成績良いもんなーマジで脳味噌交換してくんね?(真顔)」
「モミジ…御主少しは努力したらどうだ、全くの馬鹿では無いのだから勉強すれば良いのに」
「う”っ…来年するから良いんだよ!」

俺は腕を組んでフンと鼻を鳴らした


「…あーそう言えばモミジ、さっき夢に鳳凰が出てきたと言っておったな?」
「おぅ!すんげぇー大きくてさ全身が燃えてんの、でもちゃんと鳥の形してたな、鶴?かなーそう言えば彼奴ミツの姿になって
さー…っ///!!」
「?…力を貰ったそうだな?詳しく聞かせて貰えぬか?肆聖(シセイ)の力を如何やって手に入れたか知りたい」

ミツは目を輝かせている、当然だろう、人間でも鳳凰が凄い妖怪だという事は知っている位だ
妖の彼なら尚更だ、だがしかし接吻で力を譲り受けたなどしかも、目の前の彼の姿でそれをされたなどと言える訳が無い(恥)

「…///んとー……良いじゃん♪」

可愛く誤魔化してみる、だけどミツの目は変わらずキラキラしていた
おんどりゃー!!(怒)くっそー意識してないのに鼓動が早くなるよー!!(心の中では号泣)

「(言えってか?言えって言ってんのか?!…)…分ったじゃぁ教えてやる!た、但しこ、…後悔すんなよ///!」
「後悔?如何言う意味だ…?」

ミツは訳が分らないと言う顔をしていた、そして俺は後に後悔する事をしようとしていた…
俺は彼に近寄った、これでもかって言う位に、ミツは怖がって後ろへ下がるすぐ後ろは壁だ

「…何をする気だモミジ…?儂は方法を聞きたいだけなのだが…?」

ミツは両手を肩の前に出してお手上げと言う様な顔になった
頬が引きつっている

「だ、からっ!!言い難いからそっ…あーもぅっ腹いせでも何でもいいっ実践したるっ///(目一杯近寄って)」

殆ど脅迫だ(苦笑)

「じっ実せ……っ!!?」

彼が言い終える前に俺は唇を塞いだ
押しすぎて彼が壁にゴンと頭をぶつけた、すまねぇ(汗)

ほんの数秒、だったが

…っ、はぁはぁ…///ってな具合にヤられたんだよぉ!!!しかもオメェの姿でな!!(怒り爆発寸前)」
「…っ///、はっ?…………ひぃっ//////!!…儂、わ、儂の姿でだとっ?つーか実践する必要あるのかっ!!!!!!」

正直、ぶっちゃけナイ

「いっ良いんだよっっ!!だってムカついたからぁっ!///」
「……あのなー↓///あー…最初が御主かよトホ…」
「うげっオメーもかよ///・・・・・・その、ゴメンナサイ///」

萎れた、恥ずかしすぎる
後悔先に立たずとは正にこの事だろうか…