第壱話 【転入生】


キーンコーンカーンコン…

11月12日
朝8時50分―いつもどうりの朝
今日は霜が張っていてとても寒い
はく息が微かに白い

ガラッ

担任の基山先生だ
教科は数学、真面目で少しかたい、話しかけると口ごもるのが癖だ

「…えー皆さんおはようございます、今日は11月で一番寒いそうです、そうそう…
今日は転入生を紹介します…火群くん入ってきて下さい」

転入生?こんな時期に?…いや、時期は関係ないか…うん

学ランを着た男子生徒が中の様子を伺いながら入ってきた、どうやら男子の様だ

「さ…こっちに来て」

男子生徒は教壇の上に立ち、スッと顔を上げた
その顔立ちは京風の上品な顔を少し濃くした感じで、目鼻立ちは良かった
その証拠に女子たちが黄色い小声を上げている

「自己紹介をして…」

担任がそう言うと

男子生徒はゆっくりと口を開け「火群 魅月(ホムラ ミツキ)です」
と自己紹介をした
自己紹介をしただけで更に女子たちは今度は少し大きな声でざわついた
やはり男は顔らしい

「一応席は作ってあるから…木村の後ろの席、木村ー」

担任がそう言うので僕は「こっちだよ」手を上げた
火群君は教壇から降りると窓側の僕の席がある所まで来た
その途中、女子が目を爛々とさせながら彼を見ていた

「えと…」
「ここだよ火群君」

僕は半分後ろを向き真後ろの席を指差した
彼は黙って席に着いた

とりあえず自己紹介しないと、僕は彼が座ると同時に後ろに向き直った

「僕は木村 彰(キムラ ショウ)宜しくね火群君」
「…あぁ、よろしく」

転入初日だから緊張してるのだろうか、声が強張っていた

「何処から来た…

『ねぇねぇ〜火群君ってドコからきたのぉ〜?』
『何処に住んでるの〜?住所教えて〜』
『ホムラくんって彼女いるの〜?いなかったら付き合ってぇ〜?』

ホームルームが終わるなりクラスの女子達がわらわらと彼の席にやって来た
イキナリの質問攻めだ、モテる奴のお約束だ

女子達が集っていると、一際大きな声で「おどきなさい貴方達!」と、
学級委員の叶 実果子さんだ

「火群君に迷惑よ!さ、どきなさい!」
『いこ〜』

叶さんの鶴の一声で女子達は一斉に居なくなった、流石は学級委員だ

「あの娘達が迷惑かけたわね、来た早々ごめんなさいね、私は叶 実果子、学級委員よ
分からない事があったら何でも聞いてちょうだい」
「……、ありがとう」
「…す、凄いね叶さんは流石だね…」
「別に、私は当然の事をしたまでよ?1時限目は理科室よ、1階の東側一番奥よ」

彼女は律儀に教室の場所を教えてくれた、と言うか彼女もまた彼目当てなのだろうけど…

「あ、良かったら一緒に行こう」
「うん」


***
15分休み―僕はまだ火群君と一緒に居た
その所為か今日は友達が誘いに来なかった、男子は自分よりモテる奴が嫌いだ

「ねぇ、火群君って前の学校でも人気だったの?」
「魅月でいいぜ、…人気は別に無かったよ」
「じゃぁこの学校来て疲れたでしょ?そだ、昼休みサッカーしない?僕サッカー部なんだ」
「…いや、昼休みはゆっくりしたいな、疲れた…」

彼は若干俯き半目をつぶった

「お疲れ」僕はそう言って彼の肩を軽くぽんと叩いた


***
昼休み―

「〜…ミツキの所為で僕まで疲れっちゃったよ、あ、別にミツキが悪いわけじゃないよ」
と、一人で会話をしていた、彼はいない

その時

「あー木村君みっけたぁ〜火群君が屋上に呼んでたよ?」

同じクラスの女子だ

「ミツキが?何で」
「知らないけど来て欲しいって言ってた」

僕はとりあえず行ってみる事にした

「(屋上に呼び出しって…まさか転入生の癖に僕をいじめる気じゃ…やっぱ戻ろうかな〜
でも違うかもしれないし…)」

僕は内心ビクビクしていた、小心者だ、

キィ

屋上の扉を少しだけ開け、辺りを見回した
彼は給水塔を囲ってあるコンクリの壁の前に座って弁当を食べていた
何ら普通だった、どうやら一緒に弁当が食べたかったらしい

「ミツキー屋上に呼び出すから何かと思ったけど、一緒に弁当が食べたいならそう言えばいいのに?」

僕は明るく彼にそう言った

「すまんな、女子共が騒がしくて、ま、座れ」
「うん、あ、僕今日はパンなんだ」

なーんだ良い人じゃん…あれ?何か喋り方が変なような?

「どうした?儂の顔に何か付いておるか?」
「………?!あれっやっぱりだ!!喋り方違うよね?人前と…」
「…何だ?御主儂だと気付いておらんかったのか?」
「へ?…はい?何のことさ…?え?」

僕は頭が混乱した、何だか数日前のデジャヴの様な気がしてならない
まさか、あれは夢のはず…

「はは…コレ夢だよね?君があの烏天狗なわけないよね?」
「如何にもそうだが」
「ヒ〜!!夢じゃなかったぁーー!!」

僕は思わず自分の頬をギューと強く引っ張った、痛い、夢じゃない…みたい

「どうした?何を驚いておる?そんなに信じられんかショウ」
「あ、当たり前だしー…え?」

ヴン

彼の周りが一瞬歪んで見えた、かと思ったら…

「この姿なら分かるであろう?」
「くっく黒い羽…耳、尻尾…じゃ、じゃぁ本当に?」
「そうだ、ちと事情があってな」

彼は苦笑いをした、僕は思いっきり苦い顔をした

「しかし…御主も記憶力が悪いの〜?」
「…だ、だって暗かったし、それに夢だと思うし…フツー」
「そうか?」
「そうだよ!」

僕は驚きはしたが何故か怖くなかった、勿論夢だとも思っていない

カシャ

その時、何処からかカメラのシャッター音が聞こえてきた

「イケメン転入生は妖怪だった!!スクープGet Yey!」

給水塔の上から聞き覚えのある声がした

「き、君は学校中の嫌われ者でウチのクラスの保険委員の緑川 モミジさん!!どうして君がっ?!」
「…〜何とも嫌味な説明ご苦労サン!ってるせぇなっ!!俺の昼寝の邪魔すんな!!」


緑川モミジ、日本人とは思えない程の赤い長髪、左右で違う瞳の色、
しして、いじめられっ子だ

「…ショウ?彼奴は…?」
「あー、同じクラスの…
「俺は緑川モミジ!モミジでいいぜ、ホムラ!」
「……此処で見たことは忘れてもらおう、“晦”(クラマシ)」

ミツキは指先から黒い小さな稲妻のような物を放出し、緑川さんにソレを向けた
が、

ゴキ

物凄い音がした

「おんめぇーいきなり何しやがんのさ?記憶消そうってのか?そうはさせねぇよ」
「っっがっ…!!!??き、貴様っ!!」

彼女はミツキの手首を回転させていたのだ、それも物凄い力で

「俺も仲間(ダチ)にしてくれたら放してやってもいいぜ?」
「なっ…ほざけっ
ゴキキ…
…痛っー!!!い”ーーーわっ分かった、分かったから放せぇーー!!」

ミツキの目は潤んでいた、噂には聞いていたが緑川さんの握力は女子の中でもトップらしい

「ホイ、んじゃ俺今日からおめぇらの友達な☆ヨロシクなミツキ、ショウ!」

彼女は満面の笑み(と言うより嫌なニヤケ面)でそう言った

「フンっ…」

ミツキは腑に落ちないと言うような顔だった
僕は…

「ってえぇーー!!僕もぉ?」
「おぅよたりめぇじゃん♪」

こうして今日は新たな仲間もとい友達が出来た

って何コレぇー!?