夕闇に紛れ

満月の光に照らされて

此の広大な天へ

消滅え行く…―

其れは――



「何それ?ゲームのキャラ?」
「違うよ、妖怪だよ〜黒い羽が生えてて下駄履いてさ」

2人の中学生が部活帰りに喋りながら住宅街を歩いていた
一人は茶髪の外ハネセミロング、もう一人は坊主
どちらもサッカー部員だ
今彼らの間では「妖怪」の噂が流行っている

「で…何て言ったっけソレ?」


第零話 【烏天狗】


僕は彰(ショウ)
迷信や在り得ない事は絶対信じないタイプだ
勿論、妖怪なんて…

バサッ…

え?羽音…鳩?かな?

「(もぅリューちゃんの所為だよぉ〜)」

何ビビッてんだろ僕


「のう?其処の詰まらなそうな顔した餓鬼」

「むっ誰がつまらないだって?!!」

んとぅイキナリムカつくなぁ……え?

だ、誰………?

「誰っ???」

僕は恐る恐る振り向いた

何だ、誰も居ないじゃないか…ビックリしたなぁ〜


「何処を見ておる?全く人間という輩は地面ばかり見て詰まらんのう?」
「実に詰まらんの…」

「きっ君はな…何??」

黒い羽 下駄…着物…狐のような耳…尻尾?―まさか…

「烏…天狗?」
「ほぅ…分かったな?」

ブワァサリっ

奴は僕の前に、目の前に飛んで来た
一瞬のうちに…

「如何にも儂は“烏天狗”だ 怖いか?」

あっ当たり前じゃんっ!?得体の知れないモノが目の前に居て怖くない訳がないだろ?

「御主はツイておる、今宵は…月が紅い―儂も奴等も血が騒ぐ―」
「??」

何を言ってるんだこの人(?)は?

その時、僕は更に得体の知れないモノを見た

「さぁ宴だ!」
「……!!??」

夜空に居たのは…

巨大な蛇?…違うっ龍だ…!

「何だ1匹か?つまらんな…まぁ良い」
「ぅわぁぁーーーーー!!!何だよこれ…」

僕はやっと正気を取り戻した
そりゃ驚くよね、だって目の前に龍がいるんだもん…龍?…龍だってぇーーー???!!

「これ!餓鬼っ騒ぐでないぞ?!奴が襲ってくる」
「んな事言ったって怖いものは怖いよっ!!」
「まぁ見ておれ」

奴は右の掌を空に翳した
その時―

「雷っ!!(ライ)」

眩いばかりに辺りが光った
まるで昼間だ

そして一瞬でソレは消えた

「雑魚か…」
「でっかいの消えた…の?」
「うむ殺した」
「!?」

殺したって…まさか今の雷みたいなので?

「のう?此れで終いではないであろう?…其処に隠れてるのは分かっておるぞ?」
「?」
「……暗影よ」

ヴヴヴヴヴ…

怪しい機械音のような音がしたかと思うと、彰の身体に何やら黒い、怪しい影が纏わり付いた
額には暗の文字が浮かび上がっていた

シュンっ

「痛っ!?」

烏天狗は横転した
怪しげな影に包まれた彰から攻撃を受けたのだ
彰の手から青い炎が出ていた
憑依されているのだ

「後ろを取られるなんてまだまだ青いよ天狗クン♪」
「ぬぅ…人間に取り憑くとは…卑怯だぞ?ヤル気はあるのか…?」

ドスッ!!?

「アルに決まってるじゃない?馬鹿な天狗クン♪」
「ガッ…!?」

暗影は烏天狗に青い炎を押し付けた
ソレは着物を燃やさず、身体を直にジリジリと燃やすのだ

「あ〜良いカンジ♪」
「ッガッ…!?やっ止めろぉっ…」
「痛いの〜?でもその顔ス・テ・キ♪」

暗影は更に火力を上げた
烏天狗は苦しそうにもがくが、身体が動かない

「もうすぐイカせてア・ゲ・ル・カ・ラ…

「雷火!!(ライカ)」
「?!!え…―


***
「―…で僕は一体?」
「暗影に取り憑かれておったのだぞ?しかし…御主儂の攻撃を受けても平気とは…」
「…そのとりあえず…ありがとう、って言うべきかなコレ」
「ぬ?…うむ…///」

烏天狗は微かに照れていた
その言葉を言われたのは久しぶりだったからだ

「そういや御主名は何と言う?」
「名…?僕の?…彰、木村彰だけど?君は?」
「…魅月だ」
「とりあえず…よろしくねミツキ」

僕はこの不思議な少年「魅月」と今日だけ友達になった
そしていつの間にか少しだけ迷信を信じてみようと思った

「あ、そうだどうしてミツキは僕を助けてくれたの?妖怪って人間を食べるってイメージがあるから」
「ぬ?…人間は拙い、それに安心しろ儂は御主の見方だ」

そう言ってミツキは暗闇の中へと消えていった